2010-01-01から1ヶ月間の記事一覧

空白

猪飼野を詩人と歩いた。「恋は水色」が流れる喫茶店で詩人と珈琲を飲んだ。大阪文学学校の近くの居酒屋で詩人とささやかな宴、詩人の「至純の歳月」の話を聞いた。詩人が穏やかにこう言った。「君は全羅道の顔をしている」。どういう顔? 「穏やかで柔らかい…

生きてあれば

こまこまとした雑用を片付けるうちに一日が終った。翻訳手付かず。島比呂志のエッセイ『生きてあれば』(ハンセン病文学全集4所収)を読む。 「わたしは、なんのために、ものを書こうとするのであろうか。十年近い歳月には、失明の不安におののいたこともあ…

歌は歌い手の数だけ。

佐藤友哉『1000の小説とバックベアード』(新潮文庫)。なぜ書くのかということをめぐる、若々しく、心躍る、物語。文学オタクが書くものは、とかく自己完結しがちなのだけど、ここには、自己完結を打ち砕こうとする意志と言葉がある。才能は自分自身を打ち…

宝石

井上ひさし、今さらながらだけれども、やっぱりうまいな、見事に太宰を生かしてくれた。『人間合格』。 『人間失格』の堀木とのやりとりのエピソードを下敷きにして、第二幕の最後を飾る、修治(太宰)と二人の友のたたみかけるようなやりとり。 佐藤:三人…

心の羽ばたき

引越しの準備やらなにやらの隙間を縫って、日々翻訳。漸進。『1000の小説とバックベアード』(佐藤友哉 新潮文庫)、『キラ キラリナ』(パナイト・イストラティ 未知谷)を書店でジャケ買い。『キラ キラリナ』はちらと覗き見た語り手の語り口(騙り口)に…

死に切って、生きる

「ハンセン病文学全集4 記録・随筆」に収められている「地面の底が抜けたんです」(藤本とし:邑久光明園)を読む。藤本としさんは、明治34年東京生まれ、大正8年に十八歳で発病、昭和23年失明。「あれから(失明してから)25年もたったんですねえ。…

座敷童子という生き方

『人間合格』(井上ひさし)と『人間失格』(太宰治)、この2冊が仲間うちでのヨミ会(読書会)の次回の課題図書。ヨミ会の若いメンバーから「人間失格」を再読しようという提案があったのが昨年末で、そのときに詩人がるがんちゅあが「人間合格」も合わせ…

身一つ。

横浜方面に居を移す。正式決定。引越しは一ヵ月後。引越しのたびにいろいろなものを捨て、身軽になっていく。しがらみも、よどみも、迷いも、少しずつ、振り落としていく。いつどこに飛んでいっても、大丈夫なくらいの、身一つ。それが目標。 「なにかになる…

蘇生

「百年はもう来ていたんだな」 と漱石の『夢十夜』の第一夜は終わる。「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」と言って息絶えた女との約束を守って待ち続けて待ちくたびれて騙されたのではとさえ思い始めていた男の、気づきの…

出航

横浜で年越し。 12時ジャストに港に鳴り響く汽笛を聴き、遠くで弾け散る爆竹の音を聴き、ランドマークを照らす花火の光を見た。四半世紀前、自分にとっては節目の年の新年を汽笛を聴きながら横浜で迎えて以来のこと。今年はきっと節目の年だから、もう一度は…