2017-06-06から1日間の記事一覧

「詐欺師」は『群像』1973年12月号に発表。

主人公の白東基は、まるで阿Qのようだ。 魯迅の影をよぎる。ケチな詐欺をしたがゆえに、共匪(北のスパイ)の主謀者にでっち上げられた男が、すべての希望を断たれたことが分かった瞬間に、おれは共匪だ、主謀者だと、そう名乗りをあげることで、小さかった…

「トーロク泥棒」は『文学界』1972年5月号に発表。

制服制帽をトーロク(外国人登録)代わりにし、友人のトーロクを盗んだ男。 密航船の飲料水用の予備の貯水タンクに潜んで、予定がのタンクへの注水のために溺死した男。 死にかけている魚と、溺れる魚としての、ひとりの男がいる。 「そのとき、水槽の中の魚…

1971年『文学界』に発表された「夜」は1960年大阪が舞台だ。

火葬場のある町、母の死、そして北朝鮮への帰国運動……。 隠坊、癩者、朝鮮人、川向うの人々。 火葬場にて。 「すすけて真っ黒になった凹凸のはげしい高い壁が天井に接して目に入ってきた。そこには無数の嬰児の大きさをもったざらざらで粗雑な仏像ようのもの…