浮気鶯(本調子)



浮気鶯 ひい ふう みい
まだ住み馴れぬ庭伝い
梅をば捨ててこませもの
ほうほけきょの約束も
憎や隣の桃の木に


古来、「竹に雀」「梅に鶯」であるものを、まったく今日びの若い鶯の野郎ときたら、梅に止まってさえずったのも束の間、あっという間に桃の木に飛び移ってしまってさ、ませた真似をしてくれるじゃないですか。ほうほけ今日お会いしましょう、なんてふざけた約束はたいがいにしてちょうだい。

てな意味でありましょうか。


桃の木にも飽きた鶯は、そのうち桜の木に飛び移っていってしまうんだわ。梅も桃も桜もいっぺんに咲いてしまうような最近のお天気じゃ、鶯もさぞ忙しかろ。


私は一応、気まぐれのお相手になる梅や桃のや桜の木のほうの立場であるけれど、(鶯は野郎ですからね)、ま、どっちかというと、語感からして、桃や桜よりもとうのたった梅のような気もしなくないが、なんかそういう「浮気鶯」って許しがちというか、実は好きだったりするわけで、気を揉んだり、一瞬の勝利(?)に酔いしれたり、枝葉揺らして泣いてみたり、ほんに人間ってやつは因果で、筋が通らなくて、むごかったりやさしかったり、面白いですねぇ、怖いですねぇ。しれっと、こんな唄なんかを作って、調子に乗って唄ったり遊んだりするんだから、人間ってやつは浅はかですねぇ、でも結局はどうしようもなく愛おしいんですよねぇ。


この唄の元唄は上方小唄で二上がり、



浮気鶯 梅をば捨てて
世間歩きの桃の花
何の意見を聞こぞいな
ええ 聞こぞいな


世の中の浮気鶯たち、図に乗っちゃいけませんよ。
世の中の梅の木、桃の木、桜の木、春の陽気に酔っちゃいけませんよ。


あんまり醒めてても、なんだけどね。