寄り目

家にこもってパソコン画面を見ているか、本を読んでいるか、いずれにせよ、近くに焦点を合わせ続けていると、もう、脳みその芯、脳幹のあたりから、ぐぐっとすべて寄り目になってきて、内側から自分が縮こまって、真空の瓶のなかに吸い込まれていくような感覚に捕らわれる。

堀江敏幸「雪沼とその周辺」 古典的ツボ勝負。全体の緩さとツボのキュッという感じのバランスの妙。
保坂和志「この人の閾」   保坂さんはとても楽しんで書いている。それはすごくよくわかる。
金井美恵子「恋愛太平記」  この「毒」は癖になる。これだけの「毒」を吐き続ける体力に感嘆する。羨望。
深沢七郎楢山節考」    先日友人と話したのだが、「楢山節」ではなく「楢山節考」である意味は何なのだろう。楢山節について考える小説、ではない。楢山節が流れる世界を考案した小説だとは言えるかもしれない、でも、どの小説も何らかの世界を考案しているわけだから、わざわざ「考案した」と「考」をつける必要もなかろう、では、どういう意味合いでの「考」なのか、と枝葉末節なのか幹なのかもわからぬことを無駄にツラツラ考える。
小川洋子「原稿零枚日記」(すばる連載) 淡々と嘘を吐く。

寄り目矯正のために散歩に出る。
家の近くの洗足池で桃の花が満開。なぜだかホッとする。