散歩の戒め

終日、単行本のゲラのチェック。合間に気分転換に洗足池散歩。休日の洗足池はスワンボートが楽しげに行き交う。池にかかっている木橋は、DOCOMOのCMで「おじいちゃん、池と沼の違いは何?」と女の子が携帯で電話しているあの橋。池と沼の違いは、河童がいるかどうかだとCMでは答えているけれど、洗足池には確かに河童は住んでいなさそうだが、きっと『夜叉が池』のような恐ろしい「主」はいる。洗足池を散歩するときは、神妙な心持で歩くべし、妄想、妄念、邪念、悪だくみは捨てるべし、そう戒めるほどに頭の中は溢れんばかりの妄想……。

洗足池のすぐ側には大田区立洗足池図書館。本を三冊借り出す。「挟み撃ち」後藤明生、「火山島」金石範、「済州島現代史」文京洙。時間のないときほど、本を読みたくなる、どこかにふらりと行きたくなる、本をカバンに詰めてどの汽車に乗ろうか、ああでもないこうでもないと旅程を練る。むくむく江ノ電に乗りたい。「俺たちの朝」を口ずさむ。

ハンセン病国賠訴訟第一次原告のひとりだった上野正子さんから自叙伝「人間回復の瞬間」(南方新社)が届く。上野さんは石垣島出身。私が関わった映画「ナミイと唄えば」をご覧になっていて、石垣島在住の沖縄最後のお座敷芸者ナミイおばあのことも、ナミイおばあの元カレの水牛老師のことも、ナミイおばあの家来である私のこともよくご存知なのだという。私と水牛老師は、5月9、10日と星塚敬愛園で催されるハンセン病市民学会の交流集会に参加して、上野正子さんと対面することになっている。