オーバーヒート

江戸川乱歩を久しぶりに読み返し、思いもよらぬことに、生理的に拒否感を覚える。いったい、どうしたことだろう? 語り口がどうも肌に馴染まない……。

庄司薫「赤頭巾ちゃん気をつけて」、なにげに読み始めて、甘ちゃんお坊ちゃん風のやけに言い訳の多い語り口ながら、そのテンポに引き込まれていく。うまいな、庄司薫

歌舞伎座に行ってきた。「五重塔」(獅童勘太郎)、「海神別荘」(玉三郎海老蔵)。どちらかというと期待していなかった「五重塔」がかなり良かった。獅童の台詞回し、間のよさが舞台を引き締めているように感じた。(というか、勘太郎との比較で獅童が得をしたのかな……)。
「海神別荘」は舞台装置、音響、演出が格別、海底の揺らめく幻想的世界が舞台上に見事に出現している。なのに海老蔵のあの一本調子はどうにかならぬものなのか……。劇団四季の夏休み子供向け公演のおにいさんのような台詞回しではないか……。玉三郎とのやりとりが始まるまでがツラくてならぬわ。

「海神別荘」。鏡花は海底の公子に託して、虚飾やとらわれから自由な、真なる美、真なる善、真なる愛を語っている。人間に対する幻滅も。

歌舞伎座からの帰途、「世紀の発見」磯崎憲一郎、「終りし道の標べに安部公房、「浪曲的」平岡正明 を図書館で借りる。数日前に亡くなった平岡正明さんへの哀悼の想いとともに「浪曲的」の頁を繰る。


しかし、ここ数日、地に足のついていないふわふわした感覚がつづくと思っていたら、やっぱり、熱……。ずっと言葉にならぬことを言葉にしようと考え続けた挙句のオーバーヒートであろうと自己解釈。まいったな……。しばし休養。