愛のゆくえ

訪ねてみたい図書館がある。
アメリカンのサンフランシスコに、もっと具体的に言えば、サクラメント・ストリート3150にその図書館はある。黄色いレンガ造りの図書館。朝九時に開館して、夜9時に閉館する。でも、入口のドアの脇にある鐘を鳴らせば、いつでもドアは開けてもらえる。1年365日24時間開館。この図書館は本を貸さない。人々は自分が書いた本を持ってこの図書館にやってくる。たったひとりの図書館員がその本を受け取り、本の受け取り明細帳に本の題名と著者を記し、本は書き手自身によって図書館の本棚に置かれる。この図書館に収められた本は誰にも読まれることはない。この図書館は、「人生の敗北者が自分の書いた本を持ち込んで来るところ」。
ブローティガンの小説「愛のゆくえ」のなかに、その図書館はある。

昨日、恵泉女学園大学での5日間の文芸創作集中講義が終了。書くということは、自分を見つめることであり、同時に自分を開いていくことでもあるから、書くための出発点に立とうという学生たちのために私がなしうることは、自分を見つめ自分を開いていくための場を用意して、彼らをそこに招き入れることで、その役割をきちんと私が果たしたなら、あとは学生自身が動き出す、変わってゆく。動き、変わる学生たちを、私は見つめ続ける、その声に耳を澄ましつづける。5日間、日々学生たちが差し出してくる新しい言葉に出会った。

「無銭優雅」山田詠美、「バッテリー」浅野あつこ、「少女病田山花袋、「東京タワー」江国香織、「きらきら光る」江国香織、「ことばあそびうた」谷川俊太郎、「ぼっけえ、きょうてえ岩井志麻子、「森に眠る魚」角田光代、「パラレル '08年北京パラリンピック日本選手団主将・京谷和幸の物語」、「The MANZAI」浅野あつこ、「ぼくは勉強ができない」山田詠美、「星の王子さま」サンテグジュぺリ。5日間のうちの一日、ひとりひとりが友に読んで欲しい本と、自分はその本をどう読み何故友に勧めたいのかを記した書評を持ち寄り、文学サロンのように、みなでお菓子を食べつつ、おいしい水で喉を潤しつつ、本から広がっていくさまざまな会話を楽しんだ。本を手にした12人の人間の人生の時間が交差する豊かな時間。

さて、読書に戻ろう。「愛のゆくえ」を追いかけよう。