秘密を抱え込んだ石は砕ける

「いいからそこに座って私の話を聞きなさい」。そうして女が語りはじめる。「秘密」の告白。生きることそれ自体が「秘密」に押し込められるしかなかった、その事実の告白。何が語られるのかは、ここでは言わない。『悲しみを聴く石』(アティーク・ラヒーミー 白水社)に、その告白はある。語りつくせなかった余白を残して。
『悲しみを聴く石』の扉にはアンナン・アルトーの言葉。「身体から、身体を通して、身体とともに、身体に始まり、身体に終わる」。 この言葉の意味を考える。


津軽』(太宰治)再読。自分を見つめるもうひとりの自分と常にともにある作家は、何か言うたび、するたび、もうひとりの視線に突き刺されて、身悶える。太宰はいつも身悶えている。見る自分と見られる自分のはざまから、その居心地の悪さに耐えかねた言葉が、這いずり出てくる。