イオド(イオ島)、あるいは常世の島、もしくはパイパティロマ

済州島に廃校を利用したギャラリーがある。キム・ヨンガプという写真家の写真だけが展示されているギャラリー。韓国本土から島にやってきて、ひとり山を歩き、海を眺め、光を待ち、一日に一枚、島を撮りつづけ、やがて病に倒れて、この世を去ったのだという。

写真も、写真に添えられた文章も、胸に食い込んだ。

「本当の自由人になりたくて、ひとり歩いた。自由であるほどに苦しみも増した。しかし自由な生の闇も私が担わねばならぬものだから、精一杯背負った。本当の自由はひとりである時のみ可能なのだと信じて、マラ島で、名もなき島で、ひとり過ごしてみた。でも、たった数日をひとりでいることさえ苦しかった。だから、本当の自由人になることは諦めた。ひとりでは生きられないことを知りながら、ひとりでありたいと願った。ひとりの時にはただ写真だけに没入することができた。人が仕事中毒だと忠告しても笑い飛ばすことができた。中毒にならねば、この世と生の実相を感じ取ることはできなかっただろう。二十年余りの間、写真だけに没入して、私が見出したものは「イオド」だ。済州島民の意識の底辺に存在するイオドを私は観た。済州島の人々が夢見たユートピアを私は全身で感じた。呼吸困難で生と死の境に立った時、私はイオドに出会いもしたのだった」キム・ヨンガップ 

イオドは、幻の桃源郷常世の島。その昔、波照間島からパイパイティロマ(桃源郷の島)目指して人々が漕ぎ出していったように、ここでも人は目には見えないイオドを目指す。