耳を澄ませて

「アルフレッド・アルテアーガ+高良勉 詩選」(サウダージ・ブックス)を読む。群島詩人の見えざる共鳴体と、「アルフレッド・アルテアーガ+高良勉 詩選」の編者今福龍太氏は言う。

見えざる共鳴体。それは、じっと耳を澄ませば、この世の島々のここでも、あそこでも……。

ふっと想い起こすのは、日本の「癩療養所」という名の島で、谺雄二が黒人の詩人ラングストン・ヒューズの詩にその心を震わせて、みずからもブルースを歌うのだと書き付けた数多くの詩。たとえば――、

                                                                                        • -

「死ぬふりだけで」 谺雄二 1969年作

ぢいさまが死んだとォ
 カン カン カン カン 鉦たたけ
きのうも きょうも 山ふぶき
 ひる だかよう よる だかよう
この尾根の 哭きあれる 日に
喰わなく なって 唄わなく なって
 オレたちの ぢいさまが 死んだとォ


<ふゥるゥさァとォわァ いィずゥこォ>
 オレたちの顔を 打ち 骨 凍らせて
この尾根に もえたつ 白の山ふぶき
 妙な唄だったぜ
 念仏みてぇに くりかえしたぜ
一ふしだけの ライの ブルース


ここは にっぽん ライの尾根
 ぢいさまは クニを追われて 四十年
どこの生まれか 妻子はあってか
だァれも 知るもの いやしねェ
 ライに かかって いちどは死んで
きょうまた 死んで どうなさる
 ぢいさま このつぎァ どこで死ぬ


カン カン カン カン 鉦たたけ
 どうせ 行き場が ねェんなら
ぢいさまよォ 死ぬふりだけで やめとけや
 オレたちが この世から 滅べば
  汚点(しみ)が消えたと 笑うやつらが いる
笑わせて たまるか 生きてやれ


国を売るのも そいつらだ
 この尾根に オレたちを 追いたて
オレたちの 首を しめつけ
 ぢいさまの 眼と 手指を
  その唄と いのちを
   にぎり潰した チュクショウめらだ
カン カン カン カン 鉦たたけ
  そいつらの 素ッ首 かならず 刈る


 ふぶき やまなきァ やむ日まで 
よるが 明けなきァ あけるまで
ぢいさまよォ 死ぬふりだけで やめとけや
 鉦 うち鳴らし 奪われた いのち
  にっぽんの ライ オレたちの
 <ふゥるゥさァとォ>を とりもどせ
 カン カン カン カン 鉦たたけ

                                                                                                        • -

東京の下町生まれ、江戸っ子谺雄二のブルース。
 
さて、今日も耳を澄ませて、歩こうか。


今日は、沖縄、慰霊の日。石垣島では、水牛老師が自宅の庭に建立した「留魂の碑」の前で、ひとり島々の名もなき魂の慰霊祭を行なうという。、