済州島行き目前

引き続き、厳しい一週間。学生たちの文章にコメントをつける。雑誌「風の旅人」の原稿20枚を書く。『あなたたちの天国』の訳者あとがき36枚を書く。間をぬって、俳句を詠もうとして詠めずにただただ唸る。(初めて句会に参加した)。来月出産予定の娘の様子を見に行く。弟夫婦と一緒に親戚にご挨拶に行く。本を読む暇がない、髪を切りに行く時間もない、食事をするのをうっかり忘れる、「ご飯ですよー」と言ってくれる誰かが欲しい……。


昨夜、句会の帰りに乗ったタクシーの運転手さんと四方山話。
「お客さんの乗った市ヶ谷のあの場所はタクシー運転手の休憩所みたいなところでね、18年間タクシーを運転していますが、今まであそこでお客さんを乗せたのは今日で2回目です。1回目はすぐ目の前の病院の入院患者が、夜中におなかがすいたからコンビニへ行きたいと」
「今夜は終電過ぎまで渋谷にいました。でも、渋谷では誰も乗ってはくれませんねぇ。若い人たちは始発を待つんですねぇ。ほら、カラオケ行って始発まで待つと、よく言うじゃないですか。ほんとに朝まで唄ってるんですかねぇ。とにかく渋谷では空車ばかりが列を作ったり、流したりしてました。だからもう諦めて、今夜の作戦を練りながら休憩するために市ヶ谷に来たんですよ」
「つい最近までは恵比寿のガーデンプレイスあたりなら確実にお客さんを拾えたんですが、今はもうだめです。あそこも空車が列をなしてる」
「今まで夜中に一番遠くまで行ったのは、湯河原です。行きはお客さんがいるから、まだいいんですけど、真夜中に海の音を聞きながら、他に車もない真っ暗な道を走って帰るのは、実に心細くて怖いものでした」
「ええ、ええ、あとから考えれば笑い話ですが、心底怖かった経験も一度だけありますね。夜に女性を乗せたんです。そしたら行き先が墓場のど真ん中。その女性が車を降りる時に、ニヤッと笑いながら、『私の家はあそこなの』と指差したのが、墓場のはずれのあばら家ですよ。うわーっと思って、灯りのあるところまで必死に車を走らせて、ほっとしたところで女性が差し出したお札が葉っぱにかわっていやしないか、確かめました。はい、お札のままでした。あの女性にからかわれたんでしょうね、きっと」。
横浜の辺鄙な地名を言ってもすぐにわかる、プロフェッショナルな運転手さんだった。


さてさて、済州島に持っていく本を選ぼう。2週間、ひとりで過ごす、充電の時間。