灯台へ

上野朱さんより、森崎和江さんからの伝言が届く。西日本新聞連載を読んでくださっているとのこと。ひどく嬉しい。

ヴァージニア・ウルフ灯台へ』を読了。人々の心の動き、意識の動きを追い、それを表現しつくす言葉の可能性を追いつつ描かれる人間模様、心象風景。特に大きな事件もなく流れていく時間を飽きることもなく共有できるのは、人間の心の揺れや混沌や矛盾を、どこまでも見事なほどに繊細に、過剰でもなく過小でもない表現が試みられてるから。そうやって書き進められていく長い自伝的物語の最後の言葉を読んだ時に、なるほど、ここを目指して、『灯台へ』のウルフの繊細だけど大胆な語りは形作られてきたのかと、その言葉が深く胸に沁みた。書くことの意味を問い続けたひとりの書き手が、思い悩み、考え抜いた末にたどり着いた言葉。
「その時突然激しい思いにかられ、一瞬はっきりそれを見届けたかのように、キャンパスのちょうど真ん中に、リリーは一本の線を描いた。できた、とうとう終わったわ。極度の疲れの中で絵筆をおきながら、彼女は思った、そう、わたしは自分のヴィジョンをつかんだわ」。
このとき、ウルフは44歳。ようやくつかんだ灯台の光。それはずっとウルフの手の中にあったのだろうか……。そんなことを思いつつ、私は私の灯台を目指してゆく。


『風の旅人』原稿脱稿。この原稿をもって、早々と今年は締めくくりたいと思う。振り返れば、1月から息つく間もなかった。せめて12月はちょっとゆっくりできれば、と言いつつ、資料読みやら、テープ起こしやら、誰かの話を聞きに行ったりとか、やっぱり根をつめてやってしまうんだろうなぁ……。誰か、私に、ボーッとする術を教えてください。われを忘れて夢中になれる画期的な遊びを開発したい……。今年は本をあまり読めなかったから、せめてあと一ヶ月、読む喜びを堪能したい。


あと一か月で、今年こそ出会うはずと言われながら、まだ出会えていない、いろんなモノやコトやヒトにどれだけ出会えるのかなぁ。