『うつろ舟』メモ

ブラジル日本人作家 松井太郎小説選『うつろ舟』を読む。

解説の西成彦さん曰く、「日本人が日本人であることを止めた元日本人の文学」「日本語で書かれてはいるが、日本語で語りかけてこようとするような『よそ者』に対しては、懐かしさを覚えるどころか、ほとんど殻をとざしてしまう、そんなブラジル人の物語」。

同じく細川周平さん曰く、「『うつろ舟』は日本人が自分にとっても、他人にとっても、『日本人』でなくなる臨界点を、奥地の大河を舞台に描いている」


小説選中の短編『堂守ひとり語り』のうちの一節。
「かるかやの草の茂みでヒョローヒョローピーと鳴く鶉の声を聞いて、かすかな季節の移り変わりを知ると、神父さまのおっしゃったのを覚えておりますが、その鶉の声を聞いて、脂ののったのを焼き鳥にしたいと、舌なめずりするような連中には言ってやりましょう。真実と虚構は紙一重、要するに物語などというのは、心に写った一枚の絵姿、永くその想い出は忘れられないと」