嘘と孤独と詩

谺さんの詩を読み返している。
この3篇は、社会復帰が叶わぬまま、
まだ青年時代に、青年の心で書かれた詩。
青年時代、容貌はすでにハンセン病の後遺症で年老いていたのだと
谺さんは言った。


「石」

だーれもいない
この尾根にだーれもいない

みーんな死んじまったんか
みんな石になっちまったんか

けっとばせば
カーンと音のする石になっちまったんか

だーれも通らない
だーれもいない


「嘘」

嘘を愛せなけりゃ
生きてんの
あんまし可哀そうだ
ぼくのこころ
枯木ばかしの冬ざらしだから
そんで疲れて
口ばしってるんじゃありません
いのちから
こぼれおちちゃって
ほんとにされちゃって
嘘はほんとにどうしていいんか
かなしみきれないで
へっついの
つめたい灰んなかに
探せばきっと蹲んでいるんだ
嘘をいとほしくおもいませんか


「告白」

木製の六尺のベッドの上で、こうして
療養所の御飯を戴いていると
どなたを見ても、どなたとお話いたしても
子供の画のなかの人たちのような
そのあどけなさだけが
犇々と犇々として
わたくしを
とりのこしてしまうのでございます

まぶたを、かたくとじても
いくら、ふかいねむりにおちても
病窓はこわれている
こわれた病窓から
五月の爪色の風の貌が
わたくしの無意味な醜さを
たしかに
覗いているのでございます

(足倉山に日が出てさ)
(河原富士に日が沈む)
汚れたままに寝返って
汚れたままに漂って
エロスは孤独でございます
シーツの白を噛みしめて
わたしを支えて
エロスは孤独でございます