「地獄は極楽の出店」と歌うのは、

説経節「信徳丸」の浄瑠璃版「摂州合邦辻」。
このお話はおどろおどろしくて、継子の俊徳丸に恋慕して、叶わぬ恋から生まれでる憎しみゆえに、俊徳丸に毒を盛って癩病にする継母玉手御前が登場する。
ところが、癩病にしたのは、実はお家騒動から俊徳丸を守るためというどんでん返しがあって、
さらに話はおどろおどろしく、玉手御前は俊徳丸の癩病を治すために自身の鳩尾を刀で切り裂いて、溢れ出る血を飲ませて、命と引き換えに俊徳丸の癩病を治すという…。

一体全体、悪玉なのか、善玉なのか。とにかく、あまりに過剰すぎて、善悪では割り切れない。善悪二元論では到底理解できない世界がそこにある。このことを指して、「地獄は極楽の出店」「悪は善の出店」と説経節を論じる岩崎武夫は言うわけであるが……。

と、あれこれ善と悪のことに思いを巡らすうちに、ふっと思い出した。
ストルガツキー兄弟 『ストーカー』の、扉の言葉。

「きみは悪から善をつくるべきだ、それ以外に方法はないのだから」

そもそもは、ロバート・P・ウォーレンの 『All The King's Men』 の中の言葉。
You have to make the good out of the bad because that is all you have got to make it out of.

なるほど、そうか、そういうことか。と、これは、思うところあっての私の呟き。