千とは、つまり「無数」なのだ

と、ボルヘスは言う。(『七つの夜』の中で)。
無数の夜、数多の夜、数え切れない夜、それにさらにもう一夜を加えて、千一夜。無数、無限のダメ押し。
物語は永遠に語られ続けるのである。
誰に?
コンファブラトーレス・ノクトゥルニ cofabulatores nocturni 「物語を語る夜の人間」によって。
語り部は、夜の種族。
不眠症を紛らわすために、最初に夜の種族を集めて物語を語らせたのは、アレキサンダー大王なのだという)

夜の語り部は永遠に物語を語り続け、語ることによってのみ生き続ける、
そして人間は永遠に物語のなかの夢に取り込まれ、夢見ることによって、あるいは夢に夢見られることによって、生き続ける。

千一夜物語』について語ったある一夜、ボルヘスは言う。
「『千一夜物語』は死んだものではありません。その本はあまりに膨大なので、読み切る必要がない。なぜならそれはすでに私たちの記憶の一部であり、今宵の一部でもあるからです」

物語は物語を呼び、無限の時間はますます果てしなくのびてゆく。
それは夜の語り部にとっても、その聞き手にとっても、幸福なことなのだろう。
とてつもなくおそろしい幸福。