これは文楽・時代物・三段。説経「さんせう太夫」の流れを汲む。


<作者> 
竹田小出雲、二歩軒、近松半二、北窓後一、竹本三郎兵衛、三好松洛の合作。
先行作「三荘太夫五人嬢」の改作。

<初演> 
1761年(宝暦11) 竹本座

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奥州54郡領主・岩木判官政氏は、岩木の領地を狙う一族の悪者(丹波の城主 大江の郡領時廉)に謀殺され、跡継ぎの厨子王は命を狙われ、安寿と母君は追放されて越後の国直江の浦へと落ちてゆく。

安寿と母君に寄り添うのは安寿の恋人要之助。この要之助は安寿と母君を守って大暴れする若武者キャラ。


一方、厨子王には許嫁の初姫がいて、初姫の母が、安寿と厨子王の乳母の植竹。
そして植竹のかつての恋人蔵之進は、悪者共の悪だくみにより、岩木判官政氏を殺した下手人とされている。

そのうえ、植竹の父一学は、悪者共に厨子王殺しを命じられ、殺したふうを装って、厨子王を越後に落として、切腹して果てる。

そして、越後で、厨子王、安寿、母君は落ち合うわけである。


と、ここまでのあらすじでも、説経「さんせう太夫」とはかなり趣が異なるお話。


そして、おきまりの、直江の浦での、かどわかされの場面となる。
が、これも一筋縄ではいかない展開。安寿・厨子王一行をかどわかした山岡は、実は悪者でなく、岩木判官政氏に恩ある身。


さらに話はもつれて、由良湊の三庄太夫に売られた安寿と厨子王を、太夫の娘おさんは気の毒がり、情けをかける。
しかも、おさんは、直江の浦でゆえあって安寿一行とはぐれて、売られた安寿を追いかけてきた要之助に恋をする。
しかもしかも、そのおさん、三庄太夫の悪事の報いで、夜明に鶏鳴きする鶏娘なのだという。
三庄太夫の奥方は、せめて、娘が惚れた要之助を盃だけでも交わさせて、娘を尼にすると要之助に語る。


そのうえそのうえ、ちゃんちゃんばらばらといろいろあった末に、要之助は三庄太夫が昔捨てた子だということがわかり、
その三庄太夫を要之助は親とは知らずに懐剣で刺し、いろいろあって改心した山庄太夫は自分は政氏殺しに関わったと鋸引きの刑で殺してくれと哀願するが、誰も殺してくれぬので、みずから首を斬って果てる。


さらに、本当は善玉のかどわかしの山岡は、安寿・厨子王を殺そうとする太夫の甥の由良の三郎を殺し、
そして、要之助、山岡、安寿、厨子王は母を探して佐渡ヶ島へ。


佐渡につくまでにもいろいろあるのだけど、話が入り組み過ぎて、あらすじを書くのも難儀なこと。


たとえば、佐渡に向かう安寿と要之助は、丹後由良から逃げ出すときに追っ手をくらますために、なんと越後獅子に身をやつしていて、たどりついた越後高田でもまた一騒動。そこには、なぜか蔵之進がいて、二人を救う。そこに、身代わり地蔵も異なる趣向で登場する。



佐渡では、眼を泣きつぶした母上を、近所の子らが、おまえの子に会わせてやろうかとからかい、いじめている。
そこに厨子王現れ…、とまたここで悪玉善玉入り乱れてのちゃんちゃんばらばら。
母君は助け出され、善玉一行(要之助、山岡、蔵之進)は、悪玉のボスを討たんと、その領地丹波の大江に向かう。


そして最後は、当然に悪玉退治。安寿と要之助はめでたく結婚。


この興行の評判は「上々」だったとのこと。