うば竹の祟り

高田瞽女の「山椒太夫 舟別れの段」の最後は、直江の津で安寿・厨子王・母御前・うば竹をかどわかして、丹後由良(安寿・厨子王)と佐渡(母御前・うば竹)へと売りとばした山岡太夫への復讐譚となる。

入水したうば竹が大蛇となって、海上を舟で逃げる山岡を木端微塵にするのである。
これは祭文とも重なり合う展開で、説経節にはない話。


以下その部分。(高田瞽女杉本キクイ伝承の歌詞)

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遥か沖を 見渡せば
大風がさっと 吹き来たる
震動ないり(奈落)に 鳴り渡る
白浪だって 荒れ出だす
たちまち今は うば竹が
額にかぶくと 角を振り
総身は
九万九千の うろこ逆立ち
眼は日月の如く 光輝いて
げに紅の 舌を巻き
口より火焔を 吹き出だし
逆巻く浪を 押したて蹴たて
浮いつ沈みつ 沈みつ浮いつ
ばらばらばっと 水煙り
逆巻く浪を掻き分け 掻き分けて
直江へ帰る 山岡を
後を慕うて 追っかけ行く
山岡それと 見るよりも
うば竹大蛇と 夢知らず
こは不思議なる 荒れごとと
板子の下へと もぐり込み
万歳楽桑原 桑原と  
(※万歳楽は地震の時のまじない。桑原は雷鳴の時)
がながなが震えて 居たりける
かかる所へ うば竹が
たちまち舟へ 追いついで
半段ばかりも 引き戻し
宙へ引き上げ このときに
七重八重と 巻き絞めて
板子の上へと 頭を上げ
 おんのれ憎き山岡太夫権当め。
 よっくも、われわれ四人を謀りしぞえ。
 女でこそあれ、うば竹が、
 いまこそ思い知らせんと
山岡それと 聞くよりも
うば竹様えの 大蛇様
うたて腹が 立つならば (※うたて=気に入らないで)
十二貫はこれに 有りまする
取り返して あげましょう
命をお許し たまわれと
両手を摺りて 詫びにける
なにがうば竹 聞き入れず (※なにが=どうして、どうして)
宙へ引き上げ 引き下ろし
ぎりぎりりと からみつき
舟を微塵に 巻きこわし
ずんだずんだに 引き裂いて
底の水屑と なりにける
小気味よくこそ 見えにける

 さて皆様にも どなたにも
 ことはこまかに 知らねども
 これまで誦み上げ たてまつる