流れる水。
新しい世界への水路。
ル・クレジオ『ラガ』。
訳者の管啓次郎さんが、こんなことを書いている。
「文学の大きな役割が、世界を重層的に想像することの手助けだとしたら、そして追いつめられ窒息しそうな人々の別の生き方、別の世界のあり方をしめすものだとしたら、ル・クレジオの文学はまさにそんな希望を担おうとするもの」
「現在のグローバル化した世界のシステムは、やがて遠からず確実に破綻し、いまわれわれが知るような人類の歴史は終わりを告げるのかもしれません。けれどもそのような世界の終わりは、すでに世界中の過去数千年の神話がさまざまなヴァージョンとして語ってきたことでもあります。太陽の死として、大洪水として。どこかに抜け道はないのか、別の未来を構想する手がかりはないのか。大陸の論理に対して、水の人々、島人たちの経験がしめしてくれる英知があるのではないか。ラガへの旅をつうじて、ル・クレジオの寡黙な知性と流れる水のような感受性は、たとえばそんなことを考えていたのではないかと思います」
流れる水のごとき英知。
命の英知。