『山の神』(吉野裕子 講談社学芸文庫)から、メモ


「三月には都城十二門の中、九つの門に犬を磔にして春気を送るのである。このようにしないと犬の禍がある。犬は金畜であるから、この犬を九門に磔にするのは「金剋木」の相剋の理によって、金気を抑えて木気を扶け、木気である春の功を遂げさせ、三月という春の終りに当って、春を全うさせ、春を送るのである。
 

 東・卯の方位は木気であるが、この卯を中心とする寅・卯・辰の三門は、春の盛徳を象徴する門であるから、この三門には犬を磔にしたりはしない。

 八月には天子は大いに攘いをして、秋気を達成させる。この時、攘うのは陽気を攘うのである。つまり酷暑が残っていて、人にその害を及ぼすのを避けるのである。この攘いは、どこまでも秋気を助長するためのものであって、秋気は金気だから、金気の象徴である犬を殺したり磔にしたりはしない。


 十二月は大いに磔けて寒気を送り出す。この磔は、犬を都城の門に磔にすることである。春の時は九門に磔にしたが、冬期には十二門すべてに磔ける。それは陽を扶け、陰を抑えるためである。というのは犬は金畜で、犬を殺すことは金気を殺すことであり、この方法によって冬は十二月に尽き、木気の春を盛んに興すことができるわけである」


礼記』月令季春三月の条、季冬十二月の項。その『唐月令注』。