現代民話考⒑『狼・山犬 猫』より

むがす、むがす、あつとごぬ、おずんつぁんど、おばんつぁんが、えだんだと。おずんつぁんが、めえぬず(毎日)えっしょけんめ(一生懸命)かしェえで(稼いで)家さ帰っても、おばんつぁんは、あてげえわり(接待が悪い)んだど。ほんで、おずんつぁんは、年取って、先も短つけえごとだす、えっそこっそ(いっそのこと)、狼ぬでも食れてすまったほええ、ど思ったんだど。ほんで、東山さえって、
「東山のオオガミさん、どうぞ、俺ンどこ食ってけらえン」ど、ゆったんだど。


すると、東山の狼は、なにも悪いことしないものは食われぬとことわる。西山の狼もことわる。南山の狼もことわる。北山の狼もことわる。が、北山の狼は「俺のまずげ(まつげ)一本抜いてやっから、このまずげでおばんつぁんばかざしてみろ」と、まつげを一本くれる。


 ほんでおずんつぁんはさっそく、まずげで、おばんつぁんをかざして見たんだと。ほすたっけえ、おばんつぁんだと思ってだのが古めんどりだったんで、おずんつぁあんは。は、たまげてすまって、家ば飛び出したんだと。


それから狼のまつげをかざしてみると、通る人通る人、からだは人間でも首から上は蛇だの狸だの……。とうとうじいさまは里で暮らすのがやんだくなって、山で独り暮らしするようないなったという。

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狼のまつげ。
そういえば、武蔵御嶽神社の狼の護符の、狼も、まつげがふさふさ、可愛らしかった。