あんじゅが姫が父を探しにゆくと言うと、母は反対する。
寂しがる、悲しむ。
「小枝が裂けるつぁ この事か/血の涙ぢぁ この事か」
「そごでもないよ母上様/私は右の小指一本/切って置いて行くから/われぁ来るまで何年でも/これを舐めれば/腹もしきれないし/雀ば追なくても/待ってください」
これは恐るべき指切りげんまんの、母とあんじゅが姫の約束。
墨染の衣に身を包み、竹の杖をつき、何年旅をしても父には会えない。
野に山に野宿を重ねて難儀を尽くして、十四の歳に、三不動様のお宮にたどりつく。
露を舐めて、21日の願掛けの末に、烏帽子・直垂の神が夢のお告げ。
お不動様と言えば修験の神です。あんじゅが姫もお不動様の託宣を受けるわけです。
※五来重「修験道史研究と修験道史料」によれば、「不動明王が山伏の身にのりうつって、予言・託宣、治療などの超人的はたらきをする。これが修験道後即身成仏である」。
※「ふばり山」は「ひばり山」。中将姫ゆかりの地。
cf)折口信夫「死者の書」
※なにげに「山椒太夫」「刈萱」「中将姫」と、説経的世界観の物語が織り込まれている。
夢のお告げを得て、ついに父と会い、母と会い、姉と会い、兄と会い、
あんじゅが姫は岩木山の神に、
姉のおふじは小栗山、
兄のつそう丸は駿河の富士山の神に。
「神ねなるたて/これ位も苦しみを受けないば/神ねなるごと出来ないし/人間様だぢも/神信仰よぐ用ひで呉れるべし」