『冷海深情』。新たな世界のための神話としての海洋文学はここからはじまる。

●「冷海深情」より

「海は、歌い終わらない詩だ」と、シャマン・ラポガンの父は言う。


父と伯父は、詩で語りかけ、詩でこたえる。


●「海の神霊を畏敬する」より。

 「伯父が言うように、潜水漁の名手になるほど、漁獲は少なくなる。なぜなら、ほしい魚だけを選んで捕り、乱獲をしないからだ。老人たちのこだわりの理解が深まるほど、大自然のすべての神霊への畏敬も深まり、山林の樹木のために祈るようになる。おまえが勉強した本は、漢人がおまえたちに書き与えたものだが、おまえが書く本は、島のすべてのものがおまえに贈ったものだ。おまえも祖先の生活の知恵を後代のヤミ人に残した。労働の価値のすべては、自分で生きていこうと働く人のためのものであり、そのような人こそ尊敬するべき人なのだ。そしてまた、おまえの創作の泉源でもあるのだ」


「月がヤミ人の幻想の宇宙にかかっていた。父たちは、文字でヤミ人の歴史を書こうとしたことはない。彼らはただ、見たり聞いたりしたものを、頭に刻みつけただけなのだ」


「わたしの唯一の道は、努力して創作することだ。そうしてこそ、海のにおいのする作品を記録することができるのだ」