小野十三郎  メモ

「犬」

 

犬が口を開いて死んでいる。

その歯の白くきれいなこと。

(「抒情詩集」より)

 

 

革命は、人間の耳、聴覚に対しては最もおそくやってくるか、或は永久にやってこない。それに反して、旧い勢力や古い秩序の立ち直りときたら、これはおどろくべき早さで、人間の聴覚からはじまる。

(「火呑む欅」あとがきより)

 

ざわざわと雨になった。

だれかが言ってゐる。

この雨でまた山には茸が出るだろう。

日本といふ国はなるほど悲しい国だ。

(「抒情詩集」より)

 

 

「拒絶の木」

 

立ちどまって

そんなにわたしを見ないで。

かんけいありません、あなたの歌にわたしは。

あなたに見つめられている間は

水も上ってこないんです。

そんな眼で

わたしを下から上まで見ないでほしい。

ゆれるわたしの重量の中にはいってこないでください。

未来なんてものでははわたしはないんですから。

気持のよい五月の陽ざし。

ひとりにしてほしい。

おれの前に

立つな!