李良枝「石の聲」 メモ

この小説が未完なのは、惜しい。

初めて距離感を持って読める李良枝の小説。

愛着はここに至って、消えた。

 

 

主人公は、在日韓国人、留学生、ソウルのタルトンネで、自分自身への手向けの詩としての、未完の「ルサンチマンX氏」を書いている。

漠然とした言い方になってしまうが、それがたとえ自分の血の問題につながることがらであっても、すでに価値や意味が定められ、すでに是とされ、多くの人が承認する感情や認識というものに、疑いを覚えずにはいられなかったのだ

 

民族という言葉や、民族をめぐってのさまざまな言葉たちも、すでに与えられた意味や価値から言葉たちを、解放してやらなければいけないような気がする。

 でなければ、私たちは作られた一つの価値としての人間、その自ら作りだしてきた価値や意味の呪縛の流れから抜け出ることはできない。「在日韓国人」であるからこそ、そう思う。

 

 

お前みたいなナルシストがいるから、世界はいつもこんなに愚かなんだ。絶えず神話を作り出し、絶えず何らかの偶像を作っている。神話や偶像を否定しても、今度は否定する神話に酔い始める。意味に倚りかかってばかりいて、その上なにしろ意味にかかわる自分を信じている。お手上げだよ。呆れて口もきけない。

 

 

音の根と、言葉の根が、混じり合う時に出合いたい……。生の根に行き着く行程が、今のこの瞬間に隠されているのなら教えてほしい。

 

 

どんな文字も、芸術も、人間の肉声や踊りには負けます。 

 

※在日文学は、在日であることからの解放をめざす。

 それはみずからを規定し呪縛する日本語をもっておこなわれる内なる革命のようなものか。