安藤昌益の「猫」あるいは「炉」

最近、毎月勉強会に参加して、少しずつ読んでいる安藤昌益。

江戸のアナキスト

ただし、ここに抜き出すのは、興味関心に沿った非常に偏った抜粋。

 

安藤昌益全集 第1巻 稿本自然真営道第二十五より

「炉ヲ以テ転下一般ノ備ハリヲ知ル論」

転下万国ノ人家、敢ヘテ異ナルコト無キ一様ノ備ハリナレドモ、聖・釈ヨリ以来、城郭・宮殿・楼台、寺塔・社壇、町家・在家、柾家・草家、非人小屋等、万品ト成ルハ、上下ノ私法ヲ立テ、四民・遊民、諸職ヲ為ス故ナリ。是レ乃チ聖・釈ノ罪ナリ

 

家家、大小・美疎異ナリト雖モ、家ノ形象ニ於テ一般ナリ。是レ一転定ナル故ノ備ハリナリ。然シテ、家ハ転定ノ象リ、家内ノ炉・竈ハ即チ転定ノ間ノ一活真・自感・四行・進退・互性・八気ノ妙徳用ナリ。故ニ炉・竈ニ於テ、上、王ヨリ、下、非人小屋ニ至リ、木火金水、全ク二別無シ。

 

つまり、

この世の身分の別は、聖人・釈迦がそのような制度を作ったからだ。やつらに罪がある。

 

人が生きるに、かならずや「炉」がその中心にある。そこでは自然の活真が自己運動をして四行となり、さらに進退運動をして相互関係を持つ八気になるという精妙なはたらきが宿されている。だからこそ、炉と竈の木火金水の運動において、王宮から非人小屋に至るまで、なんの違いもない。

 

※昌益は「天地」を「転定」と書き革める。天ー地という上下関係ではなく、めぐる動き、とどまる動きを内包した「転」と「定」。

 

※江戸期の思想家である昌益は陰陽五行(木火土金水)から出発し、やがて「土」をすべての根本と考え、「土」を別格として中心に置いたうえでの「四行」で世界を語り、森羅万象を説くようになる。「土」を知らぬ支配階級など論外の存在なのである。

 

●そして、猫。以下は安藤昌益全集第11巻 「禽獣巻」より

木火土金水 この五行が天地・日月・星々となり、炉に発現して人間の生活を営ませている。したがって人家の炉には天地・日月・星々・生物のすべてが象徴されており、あらゆる思いや心がつくされている。この天地・宇宙における森羅万象を人家の炉における五行の自己運動が体現しているのである。

 

人家の六畜

薪木=馬 炊事の水=牛 鍋釜の金=犬 燃える火=鶏 灰土=猫 炉の煙=鼠

 

は人家の炉灰の木が人食の余気と鼠の多生の気に感合して生ずるものである。炉や竈や灰土の気に生ずるので、炉の灰や火の暖気を好み、そこを離れることができない。

鼠の多気が灰土と感合して生じたものなので、鼠を食う。人気の余気に感合したものでもあるから、人の食物の余りを何でも食う。

これは人気・鼠気・灰気・殺気という多くの気が感合して生じたものなので、長生きすると老獪になる。これは灰土の革気に生じた証拠である。

 

炉の灰はしばらくすると土になる。灰は火から生じ、灰は土となって気を革める役割をつかさどり、同じように四季の土用は一年の進退する四時を革める。

(中略)

 

猫もまた五行の精妙な発現であるから五常をそなえている。

 

鼠を捕食するのはその生まれつきの習性であるが、沢山の鼠がいても、一匹を獲って満腹になれば、いたずらに殺すことなく、後のために貯えて必要以上は殺さない。これは猫の仁だ。人が鼠を憎悪して、猫に一度に多くの鼠を捕えさせようと考えるが、これは猫にも劣るもくろみだ。

 

猫が人の食物である魚を盗み食おうとねらっていても、人のいるときは見つかって打たれる屈辱を思って、我慢するのは猫の義だ。

 

飼い主を慕い膝にのっても、ほかの人の膝には嫌がってのらないのは、猫の礼

 

人が鼠の鳴き声を真似ても、鼠でないことを承知しているのは、猫の智

 

空腹でも鼠を獲ろうと熱中し、盗み食いをしようとしないのは、猫の信である。

 

 

そして、猫の瞳に注目!

炉の灰土の革気の精をうけているため、猫の内臓はよく気行の変革に対応する。この変革は特に猫の眼にあらわれ、その瞳は天地の気行の進退に感応して、時とともに変化し、昼夜の日月の運行に反応する。これこそが猫が炉の灰土の革気の精を受けて生じた明らかな証拠である。

朝夕の六時には黒い円になり、朝晩の八時には三角、昼と夜の十時には楕円、真昼と真夜中の十二時には針のような形になる。

 

[猫の眼の変化の図]

  写真の説明はありません。

 

真夜中の十二時に退気が極まって一に戻り、真昼の十二時に自然の進気が極まって一になる。これは天真のはたらきがはじまる微かなきざしである。そこで猫の瞳も針のようになってそれを示す。これは猫の身体が天地の気の進行に合致し、反応することを如実にあらわしている。

 

(中略)

 

このように毎日の時刻を知るには猫の瞳が一番よい。自然のはたらきそのままであるから狂うはずがない。正確とされているオランダの時計も、これには遠く及ばない。

 

灰は簡単に土に変わる。この気を受けているため、猫は何年たっても老いて死ぬことがなく、形を変えて獺(かわうそ)になる。俗説にいう猫が化物になるという誤りはこのことによるのだろう。

 

猫の毛色がいろいろあるのは、土気のよく革めるはたらきによる。肉は甘味(注)でその性質は偏りがなく変化しやすい。人が食うと毒になるので食ってはいけない。犬は猫を食うわけではないが、猫に出合うと嚙み殺そうとする。これは猫が犬よりも性質が下でありながら、灰土の気を受けて人の座に近く、犬の上にいるのを憎んでいるためである。

 

注:五行では「土」は甘味。