2月は、大阪で、東北に想いをはせて【被災物 「モノ」語り】月間!!

「それを見たひとがその経験を「想像する」ことによって完結する。(中略) 
 たったひとりが「想像したこと」が、リアス・アーク美術館の「最終形態」になる。」
(『東北の風景をきく FIELD RECORDING vol.4  特集:出来事を重ねる』
    「白地の持つ豊かさに気づく」(取材・文 山本唯人)より)
 
気仙沼 リアス・アーク美術館の常設展示「東日本大震災の記録と津波の災害史」の中の一つに「被災物」展示があります。

たとえば、被災した「漁船」。そして、そのキャプション。

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 漁船     2012.12.1   気仙沼市唐桑町台の下

漁師だったら、自分の船は命と同じだがらねぇ。津波来るって聞いだら、まず船ば沖に出すごど考えるもの。皆そうするでば。あん時も、皆して、一斉に船出して、結局戻ったの俺だげ・・・グラスファイバーの船はダメだ。真ん中がら真っ二づにボッキリ折れで終わり。大きさ関係ないよ。結構大きい船でも同じだでば。あど、火に弱いなぁ・・・まさに火の海だったもの。昔の木造船は、意外と燃えねぇんだっけよ。

 

このキャプションに書かれている「記憶」は、漁船の持ち主のものではありません。やはり被災者である学芸員がこの漁船から読み取った「記憶」とでもいいましょうか。この漁船と向き合うことで紡がれた小さな「モノ」語りとも言えます。

とかく、型にはまった大きな記憶ばかりが語られる(あるいは、定型の記憶ばかりが求められる)なかにあって、個の記憶の物語を立ち上げること、個の声を届けること、それこそが記憶を語り伝える最良の方法の一つなのではないか。

実際、被災した「物/モノ」とともにある小さな記憶の物語、記憶の声は、その「物」を見る者の「物」にまつわる記憶を呼び起こします。忘れられていた「モノ」語りが目を覚ますのです。私たちひとりひとりには、ささやかだけど、繊細で、なにものにも代えがたい、大切な生きてきた記憶がある。そのことに気づくとき、震災で失われたもののかけがえのなさに、被災地から遠く生きる者たちの想像力が確かに届いている。

こういう形での記憶の語り継ぎ方があるのだ、想像力の結ばれ方があるのだ、震災の記憶への応答のあり方があるのだ、という発見。

たとえば、被災物の「漁船」の写真を見た者のひとりが、不意に、記憶の栓が外れたかのように、こんな「モノ」語りを語りはじめました。

立派な漁船だったんだろうね。魚をたくさん獲って大漁旗をはためかせて。

 

君はエンジン付きの立派な船を欲しがっていたね。君が暮らすザンベジ川の氾濫原。君は長い櫂を上手に操りながら、小さな丸木舟を器用に漕いでいたね。水を怖がらないのが俺たちロジの男だと。何年かに一度やってくる大水、大洪水。「Haiba mezi amagata, Litapi ziba zengata」(ハイバ メズィ アマガタ、リタピ ズィバ ゼンガタ)。「大水の時は魚がたくさん獲れるのさ」、君はそんなふうに言っていたね。ちょっと強がっていたのかもしれないけど、それは本当なんだろうな。じゃあ、ルンゴンゴウェの大洪水の時はどうなんだろう。100年に一度起こるという大洪水。丸木舟も家も村もすべてを流してしまうという大洪水。ルンゴンゴウェの大洪水であっても、君はちょっと強がって言うのかな。「Haiba mezi amagata, Litapi ziba zengata」(ハイバ メズィ アマガタ、リタピ ズィバ ゼンガタ)って。僕は君ともう一度会って、そのことを議論したいよ。

 

「モノ」語りはいきなりアフリカに飛んで、そして、それは100年に一度の大洪水ルンゴンゴウェと大切なアフリカの友人の思い出。

すると、同じくその「漁船」の写真を見ていたひとりが、生まれたばかりの「モノ」語りに曲をつけて歌いだす。

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この歌を聴けば、歌われているのはアフリカの大洪水のことなのに、それを聴く私は気仙沼津波のことを、それにのまれた漁船のことを想う、その漁船と共に生きていた人のことを想う、思わざるをえない。

こんなふうにして、文字で、声で、「モノ」語りが増殖してゆく。

 

リアス・アーク美術館より展示の許可を得た61枚の「被災物」の写真とキャプションがあります。

61枚の「被災物」から生まれ出た、新たな「モノ」語りの数々があります。

「モノ」語りはどんどん増殖しています。

それを、気仙沼から遠く離れたところに生きる多くの人々にも見てほしい、そこに添えられているささやかだけど、かけがえのない記憶の物語を読んでほしい。

そして、「被災物」を見るうちに、思いもよらぬ「モノ」語りが生まれ出てきたならば、その大事な「モノ」語りをそっと聴かせてほしい。

 

そんな「モノ」語りの場を、大阪に開きます。

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【共に記憶を編む、生きてゆく物語を紡ぐ 

         ~記憶を受け取り、語り、伝えてゆくために~ vol 1】

 

東日本大震災「被災物」と出会う、記憶を編む

気仙沼リアスアーク美術館「被災物」と出会う 

「モノ」語りは増殖する

 

61枚の「被災物」の画像とキャプション(学芸員による「モノ」語り)、そこから増殖した「モノ」語りが、壁一面に展示されます。

「モノ」語りは展示中も、「被災物」に出会った人々によってさらに増殖してゆくことでしょう。

 

【日時と場所】

2022年2月13日(日)~26日(土)@ スペースふうら   

大阪市東成区深江北3-4-11バーンユースック1F        

 TEL&FAX:06-6972-5121    携帯:090-1223-7120
  E-mail: akipwind@gmail.com (畑章夫)

              

 

【オープニングイベント】東北の語り物/東北の想像力  その1

 2022年2月6日(日) 午後2時~

 宮沢賢治を歌う 

 奥浄瑠璃「田村三代記」を語る 

 語り&三味線: 渡部八太夫   口先案内人:姜信子

 参加費:2000円

 

 

東日本大震災 気仙沼リアス・アーク美術館 被災物「モノ」語りワークショップ】

 2022年2月19日(土) 午後2時~

「被災物」に触発された記憶の「モノ」語り 当事者と非当事者が「モノ」語りでつながる場を開く

 

口先案内人:姜信子

増殖する「モノ」語りを語る人々:芸能集団ぴよぴよ

参加費:1500円

 

【クロージングイベント】 東北の語り物/東北の想像力  その2

 2022年2月26日(土) 午後2時~      

 被災物 「モノ」語りを歌う:渡部八太夫 ケセランぱさらん

 東北・南三陸の「むかしむかし」を語る:南三陸町・入谷の語り部 きよちゃん

 『菅江真澄遊覧記』より「琵琶と磨碓(するす)」  渡部八太夫

 

参加費:2000円