『女たち三百人の裏切りの書』

語られるべき物語は現世と幽冥のあわい、現と夢のあわいからやってくる、

それを語りだす密かな声は、琵琶の弦の響きのごとく

空気を震わせ、まつろわぬ魂をふるわせる。

 

(鞠姫の)その独特の声のその独特の作用は、そもそも何に起因するのか。

 由美丸は奏し方と見ている。声を楽器と譬えるならばその弾じ方と見ている。そうして事実、楽器に近かった。対面した初回から、これが由美丸の覚えた印象だった。美しいが歪つに不安定な声そのものが弾物であり、たとえば十三弦、その細緒の音域はしばしば特徴的に現われる。しかし第六から第十の中の緒もあればもっと低音を奏でる太緒数弦もある。

 発声法なのだ。それが不可思議なのだ。

 あるいは異様なのだ。あるいは巧妙至極なのだ。

 弾かれて浮動するのが鞠姫の声。そこに具わる独特の作用なのだ。

 

「女たち三百人の裏切りの書」、あるいは「女たち三百人の偽りの書」を、最後の最後に乗っ取り、ひっくりかえす、声。

『まつろわぬ声の書』

 

現人神は要らない。国家の取り合い、権力の奪い合いの物語など無用。

転覆すべし。