心の羽ばたき

引越しの準備やらなにやらの隙間を縫って、日々翻訳。漸進。

『1000の小説とバックベアード』(佐藤友哉 新潮文庫)、『キラ キラリナ』(パナイト・イストラティ 未知谷)を書店でジャケ買い。『キラ キラリナ』はちらと覗き見た語り手の語り口(騙り口)に一目惚れでもある。パナイト・イストラティの語り口を「ダニューヴ川の滔々とした流れや、くねくねとした蛇行」と喩えたのは、ロマン・ロラン

ハンセン病患者の文学とは何か―。栗生楽泉園にあって、病ゆえ失明し、気管切開により声もなくしてなお、詩を書き、歌を詠みつづけていた古川時夫氏が語るところによれば……
「私にとっての短歌や詩は、ハンセン病の後遺症に全身おおわれながら、いわば唯一保ちえた残存機能とでもいうべき「心」のその表白の場、今日に生きる方法論、とだけはいえると思うのです。…(中略)… ―つまり私の短歌は、文字通り“声”そのものであり、また詩は、眼が見えなくとも色をもって描ける“キャンバス”。さらに言換えれば、それは私なりのリアリズムとロマンチシズムの二つの翼、生きていくうえでどうしても必要な心の羽ばたきだったのです」