2024-01-01から1年間の記事一覧

サラ・ロイ『ホロコーストからガザへ』  メモ その2

2009年3月に東京大学で開催されたサラ・ロイと徐京植の対談に先立ち、徐京植がサラ・ロイの「ホロコーストとともに生きる」へのレストランが語られた。 そこで徐京植は、 世に流通する「ユダヤ人対アラブ人」「ユダヤ人対イスラム教」という単純で暴力的な対…

サラ・ロイ『ホロコーストからガザへ』  メモ

サラ・ロイは、既にいまガザで欧米先進国グループの支持のもとに行われているジェノサイドが、10月7日のハマスによる襲撃などが原因ではないことを、明確に語っている。 欧米の植民地帝国の鬼子であるイスラエルが、その植民地主義を見事に継承、体現して、…

岡野八代『ケアの倫理  ――フェミニズムの政治思想』 読後メモ

たとえば、民主主義の発祥は古代ギリシャだと言われる。 しかし、それは、身の回りのお世話を誰かにしてもらっている男たち(=市民)が担うもので、彼らのお世話をしている奴隷や女たちは市民ではない。 奴隷や女たちの無償の労働の上に立って、自由だの、…

パレスチナのドキュメンタリー映画「壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び」を観た。

今日、2024年4月21日、大阪西成区の津守、リユースショップえまうすにて。(ちなみに、えまうすはこういう場所 エマウス運動 - EMMAUS OSAKA CENTRE ) イスラエル vs PLOだとか、イスラエル vs ハマスという視点で、俯瞰して語られるものとは異なる、人間た…

2024年3月31日 十和田に明山応義画伯のアトリエを訪ねた

壁いっぱいに「野火」シリーズの一枚が。 野火を背にした少年のこの眼差しを見よ。 少年は英字新聞を尻に敷いている。 画家が若かりし頃に訪ねた旧植民地アルジェリアでは、ヨーロッパへと向かうべく、無数の民が鉄道駅に、新聞を地面に敷いたり、新聞をかぶ…

秋田 大館市花岡に行ってきた。中国人虐殺の記憶をたどって。

青森十和田から奥入瀬渓流沿いの道を走って、大館へ。 youtu.be 山腹に「大」の字。 大館の大文字は昭和に始まったもので、歴史は新しい。 太平洋戦争中の1944年、 軍需物資である銅増産のため、藤田組の花岡鉱山のインフラ整備(鉱滓堆積場整備工事/堤防建…

高秉權(コ・ビョングォン)『黙々  聞かれなかった声とともに歩く哲学』(明石書店) メモ

高秉權。この韓国の哲学者が書くものは、とても好き。 哲学・思想がこの人の体をくぐり抜けると、社会を底から変えてゆく実践と結びついてゆく。小さな声を封じることで成り立つ近代社会を支える人文学ではなく、変革の人文学が見えてくる。 『黙々」は、199…

『ハイファに戻って/太陽の男たち』ガッサーン・カナファーニー(河出文庫)

灼熱の砂漠を、車に積まれた鉄製の空の水タンクに潜んで、クウェイトへと密入国しようとする三人の男たち。密入国ブローカーに払えるような大きな金の持ち合わせはない。しかし、クウェイトで職にありついて生きのびたい。 三人の男たちは、車が検問所の手前…

阿波根昌鴻『米軍と農民』  おまけのメモ 伊江島のヤマト由来の民謡 吉田(ゆしだ)  

吉 田 (本調子)〈伝承地:東江上・東江前・阿良〉〔系統:会所踊い系<ヤマト。 踊の構成等:2人 二才踊い衣装。小道具:陣笠、扇をもって踊る 〕 一 吉田のおやじ兼好は アヤリクヌシー さわぐ浮き世に ただつりづり(徒然)と 書いて 残せし文との心中…

阿波根昌鴻『米軍と農民 ー沖縄県伊江島ー 』1973 岩波新書 その2 反骨について

たとえば抵抗する伊江島真謝の農民のひとり、石川清食は、戦前に、指を切って徴兵に抗った者だった。無言の抵抗。指がない理由をずっと言うことはなかった。 土地闘争のなかで、ベトナム戦争の兵役拒否の運動のことを知った者が石川清食のことを想い起こし、…

阿波根昌鴻『米軍と農民 ー沖縄県伊江島ー 』1973 岩波新書 その1

昨年12月に那覇ジュンク堂一階で開催されていた古書市の、ちはや書房の棚で見つけた本。 1955年 米軍が伊江島真謝地区に襲いかかり、家をブルドーザーで潰し、火を放ち、農地を軍用地として強制収用する。 そこから土に根差し、暮らしに根差し、人であること…

コリアン・ディアスポラと文学 ~流転、追放、ジェノサイド、そして記憶の物語り~ 

コリアン・ディアスポラと文学 ~流転、追放、ジェノサイド、そして記憶の物語り~ @2024年3月3日 九州大学韓国センター 今日は3月3日。2日前の3月1日は、韓国では3・1節。 3・1独立運動の発端となった独立宣言文が読まれた日です。 この独立運動が植民地権…

『いつか、この世界で起こっていたこと』(2012 黒川創)

黒川さん、チェホフが好きだけど、チェホフ好きな自分がいやなのかな。 詩人アンナ・アフマートヴァみたいに。 私もチェホフは好きです。「曠野」とか「学生」とか、とても好きです。 たとえば、「学生」。 実家のある田舎の村に帰ってきている神学生イワン…

歌集『月陰山(タルムサン)』(1942)尹徳祚のこと

歌集『月陰山』。 これは、植民地において最初に朝鮮人によって編まれた歌集。 尹徳祚は、2024年刊の『密航のち洗濯 ときどき作家』が基にした日記の主である尹紫遠と同一人物。 戦後、生きる術を求めて日本に密航してきた尹紫遠は歌を詠むことはなかった。 …

2024年2月18日 パレスチナ連帯散歩 by 百年芸能祭関西実行委員会

団体行動が苦手、人がたくさんいるところが苦手、 でも、家でひとりでできることをするだけでは、もう耐えられない、 耐えられずに、街に出て、もう耐えられないぞと、誰かれなく囁きかける、 そんな〝パレスチナ連帯/植民地主義にもジェノサイドにもサヨナ…

旗のない文学――朝鮮 / 「日本語」文学が生まれた場所 

面白いな。 金達寿ら横須賀在の朝鮮人たちは、解放後すぐに旗を作ろうとして、太極旗の四隅の「卦」がわからなくて、それを覚えている古老を探しまわったのだという。 植民地の民に、旗なんかなかったんだね、朝鮮人の文学も日の丸以外の旗なんか立てようが…

サハリンの日本語文学 李恢成 /「日本語」の文学が生まれた場所

植民地支配という近代日本の負債を通して、サハリン(樺太)の日本語文学は、非日本人の作家・李恢成へと引きつがれた。 と黒川創は書く。なるほど、確かにそうかもしれない。 1981年にサハリンを訪れた李恢成は、現地で会った師範大学で経済学を教える朝鮮…

「日本語」の文学が生まれた場所 をめぐって

植民地空間に生まれた「日本語文学」は、 やがて、それが、「皇民」か否か、国家に益あるものか否かが問われ始める。 政治権力と文学の関わりのなかで、収まりどころのない宙ぶらりんの意識が、 生みだす文学がある。 言いかえるならば、国家と結びついた確…

小説「初陣」について  『「日本語」の文学が生まれた場所』黒川創

1935年、プロレタリア文学系の文芸誌「文学評論」に、李兆鳴という朝鮮人の日本語による「初陣」という小説が発表される。 それは、朝鮮窒素を舞台に、そこで働く朝鮮人労働者の厳しい労働の状況と弾圧とその中での連帯の光景を描いたもので、 そのもとにな…

女の言いぶん  『「日本語」の文学が生まれた場所』黒川創

yomukakuutau.hatenadiary.com 2023年12月7日の記事の補足。 近代文学が獲得する「女たちの話体」という見出しのもと、序で以下のようなことを、黒川さんは語る。 「漢字文化圏」としての極東アジアにおいて、漢文という書き言葉の教養は、女性を除外するホ…

『被災物 モノ語りは増殖する』

「前例のない非常識なことが目の前で起きているのに、前例や常識に従って何を伝えることができるのでしょうか。このやり方が既存のやり方に対して喧嘩を売っていることも、タブーを犯していることもわかった上で、それでも、この方法で表現するしかなかった…

闇の奥   

2024年の最初の一冊は、コンラッド『闇の奥』(黒原敏行訳 光文社文庫)。読みなおし。コッポラの『地獄の黙示録』のイメージが強すぎて、それを振り払いながら、 若き頃にコンゴ川をさかのぼっていった老船乗りマーロウが、闇の中で見て聞いて経験したこと…