森崎和江『奈落の神々 炭坑労働精神史』 メモ2  内発性をめぐって。

この本はを読むのは15年ぶりで、 その15年間は私自身の旅の作法、人びとの向き合い方、生き方を 大きく変えてきた15年でもあった。 だからだろう。 まるで、初めて読む本のようにして、この本を読む。 かつて文字で追って頭で理解した(と思っていた)ことと…

森崎和江『奈落の神々 炭坑労働精神史』 メモ

<はじめに>から なぜ森崎和江は果てしなく旅をしたのか……。 「私はぬきさしならなくなっているだけである。引きかえすすべがなくなっている。」(森崎和江『奈落の神々 炭坑労働精神史』はじめに より) 思わず、「あっ」と小さな叫びをあげて、息をのんで…

小野十三郎による谷川雁と黒田喜夫。  森元斎『国道3号線』からの重引

谷川雁と云えば、すぐ私の頭に浮かぶのは黒田喜夫である。一人は北九州、一人は東北の詩人で、地理的にも対極にあった詩人だが、黒田喜夫にもあったコンミュンのイメージは、谷川君とは、対極とは云えないにしても、ちょっと存在の次元がちがっていた。黒田…

渡辺京二による石牟礼道子 「彼女の文学は庶民文学ではないのです」 

自分たちの世界に向けられた近代知識人のまなざしを否定して、逆に自分たちの生活世界から近代の正体を明らかにしてゆくところに石牟礼文学の本質があると申しましたが、その際彼女は決して被抑圧者としての民の利害や言い分を代表するという方向をとってお…

森崎和江   民族語  メモ

権力によって民族語をうちくだくことはゆるしがたい残忍さであるが、民族が言語としてよって立つ日常的伝統を、他民族のなかへ移植することも不可能なのである。私は日本語をつかいながら、そのことばのもつイメエジのほとんどを朝鮮化して用いてきた。その…

言葉   森崎和江

私たちの言葉は、まだその闇へ到達できておりません。 (『ははのくにとの幻想婚』所収「地の底のうたごえ」より) 性が単独な機能ではないのに、女の性は生誕を具象としてもち、男の性は生誕を抽象とします。困ります。なぜなら具象の力とはたいへんなもの…

森崎和江  詩をめぐって

詩とは、自然や人びととのダイアローグだと、幼い頃から思ってきました。人っていうのは、自然界の中で、鳥や、みみずや、蟻なんかと一緒に生きているわけでしょ。小さい時、私はいつも、詩や絵を描いて遊んでいたけれど、それは、天然、自然とのダイアロー…

森崎和江 産みの思想  メモ

「産み・生まれるいのち」より 死について古来人びとはさまざまに考えてきているのに、産むことについてなぜ人間は無思想なのだろうと、若い頃から疑問に思ってきました。死は個人にとって、個としての生活を完結させます。これにたいして、産むことは個に限…

森崎和江『まっくら』メモ

出発点。 <はじめに>より 私には、それとも女たちは、なぜもこうも一切合財が、髪かざりほどの意味も持たないのでしょう。 愛もことばも時間も労働も、あまりに淡々しく、遠すぎるではありませんか。なにもかもがレディ・メイドでふわふわした軽さがどこま…

キム・ヨンス『夜は歌う』  メモ

1930年代 満洲東部 北間島(現在の中国延辺朝鮮族自治州)において「民生団」事件という、朝鮮人の抗日遊撃隊の根拠地における朝鮮人同士の虐殺事件が起きた。 それがこの物語の背景。 民生団(1932年2月~10月)という見慣れない団体については、水野直樹先…

ファン・ジョンウン『野蛮なアリスさん』 メモ

2020年暮れから読み始めて、2021年元旦に読み終えた、今年最初の読了本。 いきなり、こう始まる。 私の名前はアリシア。女装ホームレスとして、四つ角に立っている。 君はどこまで来たかな。君を探して首をかしげているよ。 アリシアがいかにしてア…

2021年最初に観た映画は、小森はるか監督『空に聞く』

youtu.be やはり小森はるかは「座敷わらし」なのだな、と思いつつ、スクリーンの中の人々の声に聞き入った。 (前作『息の跡』を観た時にそう思った。) 聞き手(小森)には、ことさらに聞こうとする気配がない、ただそこにいる。 聞き手は、ことさらに「聞…

映画『Cu-bop across the border』を観た。

youtu.be <映画を観た直後に友人に送った、ちょっと興奮気味の手紙> CU-BOP、本当に面白かった! ちょうど、ほんの数日前に、いわゆるK-POPと韓国の伝統芸能(放浪芸)の歌と語りの違いという話を韓国のパンソリの唱者とやっていて、 どんなにK-POPがかっ…

見えるものから<見えない世界>を探る技法

という話を、先日、オンラインで聴いた。 講師は佛教大学の斎藤英喜先生。いざなぎ流の研究者。 見えるものから<見えない世界>を探ると言えば、まずは占いだろう。 そこで、陰陽師が登場する。 「平安朝中期の王朝社会において、天体から発せられる災いの…

『パンデミック下の書店と教室』メモ

新自由主義、排外主義、過剰な民族主義、つまり右派ポピュリズムの広がりの中で、 「決して心地よいものではない共生」を考えるということ。 経済的に分断され、イデオロギー的に二極化していく世界の中で、かよわき者、声なき者、排除される側、差別される…

『女たちの同時代 北米黒人女性作家選② 獅子よ藁を食め』 メモ

森崎和江 解説を読む。 1981年11月初版の本だから、森崎さんもこの解説文をおよそ40年前に書いている。 1927年生まれの森崎さんが、54歳のときの文章。 日本人であるわたしたちには、ほんとうのところ、アベバもアンジェラも聴きとれないのかもしれない。そ…

リンギス『何も共有していない者たちの共同体』  メモ

■「もう一つの共同体」より 共同体は、人が自分自身を裸の人間、困窮した人間、見捨てられた人間、死にゆく人間に曝すときに、形づくられる。人は、自分自身と自分の力を主張することによってではなく、力の浪費、すなわち犠牲にみずからを曝すことによって…

瀬尾夏美「押入れは洞窟」 メモ

まず、一人の語り手がいる、この語り手が「場」を仕切っている。 「語り手」は、いつも押入れの中にいた「彼」と、「彼」が亡くなるまでの、「彼」の家族の来し方を、最初に語る。プロローグ。 「彼」は事故で障害を負い、亡くなるまでずっと、ほぼことばを…

黄晳暎 発言  メモ  

2008年「第一回東アジア文学フォーラム」発表原稿より。 民主主義、人権、自由、平等などは今やあまりにもよく口にのぼる。色あせた旗のように見えるが、今日的意義を失ったわけではない。お互いの状況はそれぞれ異なるが、作家である私たちは、まず国家主義…

黄晳暎『パリデギ 脱北少女の物語』(岩波書店) メモ  

この作品は、ムーダンたちの語る「パリ公主」神話を下敷きにしている。 北朝鮮に生まれ、生き難い状況に追い込まれ、家族と生き別れ、豆満江を越え、中国へと脱出し、運命のいたずらのようにして英国へと密航する。 北朝鮮脱出後、ついにはすべての家族を亡…

珍島アリラン  (資料)

진도아리랑(Jindo Arirang) 아리 아리랑 스리 스리랑 아라리가 났네~~ 아리랑 응응응~ 아라리가 났네 문경새재는 웬 고갠가 구부야 구부구부가 눈물이로구나 아리 아리랑 스리 스리랑 아라리가 났네~~ 아리랑 응응응~ 아라리가 났네 노다 가세 노다를 가세 …

黄晳暎『客人(ソン二ム)』(岩波書店) メモ  済州島4・3と、朝鮮戦争の渦中の北朝鮮・信川の虐殺をひそかな線。

物語の舞台は、現在の北朝鮮 黄海道信川郡 信川邑 そして隣り合う郡として、また一帯の地域として載寧郡も登場する。 黄海道のこの辺りは、平安道と合わせて「西北地方」と呼ばれていた。 ふと思い出したのは、金素月「南勿里原(ナムリボル)の唄」(1927)…

黄晳暎『客地』(岩波書店) メモ02  「森浦へ行く道」

永達は、どこへ行こうか、と考えながらちょっと立ち止まった。 これが冒頭の一文。 流れ者永達は、ワケあって次の工事場を探して旅に出たところ。 旅の道連れになった鄭は故郷の「森浦」へと帰るところ。十数年ぶりの故郷に。 永達は鄭とともに「森浦」へと…

瀬尾夏美『あわいゆくころ』 抜き書き

いわゆる「復興」ではない「はじまり」を語り合うために。 「はじまり」の「場」を開くものとしての「芸能」を感じるために。 「死んだ人はもうあまり喋らなかったが、時おり歌をうたっていたね」(「みぎわの箱庭」より) 2012年12月21日 まちづくりとは、 …

黄晳暎『客地』(岩波書店) メモ  友の血

「黄晳暎は語る 韓国現代史と文学 (聞き手)和田春樹」 「四・一九と友人の血」より 私ととても親しかった安鐘吉君、彼は兄が『東亜日報』の記者であったためか、兄の影響を強く受けており、私と政治的な話をよくしていたんですが、その彼とともにソウル市…

ホ・ヨンソン詩集『海女たち』の翻訳をめぐって   ~もっとも低くて、もっとも高くて、もっとも遠いところの声~

ホ・ヨンソン詩集『海女たち』の翻訳をめぐって ~もっとも低くて、もっとも高くて、もっとも遠いところの声~ (ホ・ヨンソン著 訳:姜信子・趙倫子) <1>歌に呼ばれて、めぐりめぐった旅のすえの済州島 もう20年あまりも前になります。日本とか韓国とか…

語りの宇宙 特別編/旅する異人(まれびと)たちの秋の大芸能祭    ~ おわりを越えて めぐる命の はじまりのうた ~

2020年10月11日(日)は、大阪・カフェ周で、 【語りの宇宙 特別編】 旅する異人(まれびと)たちの秋の大芸能祭 ~ おわりを越えて めぐる命の はじまりのうた ~ ◆ところで、異人(まれびと)って? それは、世界の涯から、世界に新たなはじまりをもたらす放…

『ショウコの微笑』(チェ・ウニョン CUON)  メモ

神保町でこの作家を見かけたことがある。 柔らかで穏やかで物静かな気配をまとった若い女性だった。 そんな気配の奥底に、 すべての生きづらい人々に寄り添うのだという、 すべての哀しみを分かち合うのだという、 希望の宿る場所は誰も知らないこの世の片隅…

デヴィッド・グレーバー『資本主義後の世界のために  新しいアナーキズムの視座』  メモ

思うに、アナーキズムを語ることは、わたしたちの「暮らし」「社会/共同体」「生」をめぐる想像力が、なにものによって形作られ、あるいは囲い込まれているのか、ということを語ることでもある。 資本主義の外に、国家の外に、想像力がはみ出していかないよ…

『苦海浄土』 江郷下ます女の語り。  そのときは月夜だったのか、雨夜だったのか。

水俣病で亡くなって、解剖されて、包帯でぐるぐる巻きにされて、目と唇しか見えない、真っ白な包帯には血のような汁のようなものがにじみ出ている、わが娘和子を、ます女は背負って、水俣駅の先の、踏切のところから、わが家のある坪谷へと、夜の線路を歩い…