昨日、私のもとにやってきた本。
ロケットの正午とは、ピンチョン曰く――
「影が東北に傾くとき、(ナチスの)ベーネミュンデの基地から試作ロケットが発射される。遅れてきた正午のサイレンのように、辺りにその音が響き渡る瞬間を、人は「ロケットの正午」と呼んだ」。
活版印刷。
しかも、写真が一つ一つのエピソードの終わりに、貼られている。
まるでアルバムみたいに、一枚一枚貼ってある。
手間ひまかけて、愛情深く作られて、この世に送り出された幸せな本。
その本を手にする私も幸せな気持ちになる。
本を開けば、ピンチョンの『重力の虹』を出発点に、ナチス、ホロコースト、アウシュビッツを背後に置くさまざまな文学作品を巡り、
さらにはフォン・ブラウンのV2ロケット、ロケット開発基地跡のベーネミュンデ歴史技術博物館、そしてアポロ計画まで、現代のテクノロジーの進歩とそれを支える狂気までをも眺めわたす文学探訪の旅へと誘われる。
ドイツ、ベーネミュンデ、V2ロケット、それはヒトラーの執念、そして、開発者フォン・ブラウンの狂気の賜物。
「終戦後、(V2ロケット開発の)当事者たるフォン・ブラウンを手中に収めたアメリカは、六〇年代の終わりにアポロ計画を成功させ、人類の夢を実現した。しかし、そのアポロの夢の続きに生きようとする私たちは、フォン・ブラウンに導かれたベーネミュンデの悪夢をもまた、改めて生き直さねばならない。
そうした考え方の「種」のようなものを、私はこれまでピンチョンというアメリカ人から譲り受けてきた。(中略)ただ、これからもずっとアメリカから日本へと流れ来る物語のみを追いかけていては、ベーネミュンデの悪夢を克服することはできないだろう」(「ロケットの正午」より)