原稿を書く合間にかぼちゃを煮て、きんぴらごぼうを作って、あれが足りないこれもないと腰も軽くすぐにスーパーに買物に出て、それはつまりは原稿が行き詰まっているということで、でもね、歩くと血の巡りがよくなって、アイデアも湧く、結果的に筆は進むんだよね、と自己完結型の自己内対話。
買物には駅前スーパーに行く。駅前には大学もあって、大学があるから、古本屋も数軒ある。お気に入りの店は、いまどきの中古CDも扱っているような古本屋ではなく、白髪のおじいちゃんがいつもテレビを観ながら店番をしている老舗っぽい感じの小さな店。ここで、今までに、魯迅選集1を買い、寺山修司メルヘン全集1を買い、岩波新書の絶版になっているのを何冊か買い、林芙美子の『浮雲』を買い、あれもこれも買い…。
今日も100円棚に並んでいる文庫本を三冊買った。昔読んだことがあるものばかり。
『赤頭巾ちゃん気をつけて』(庄司薫)
『文鳥・夢十夜』(夏目漱石)
『日輪・春は馬車に乗って』(横光利一)
昔さんざん読んだはずなのに、読み返してみると、なんだか初めて読むような……。
『夢十夜』の第一夜。百年待ってと死んだ女に言われた男が、待ち続けて待ち続けて騙されたんじゃないかと思い始めて、ふっと気がついて、「百年はもう来ていたんだな」、そう呟く、夢うつつの危うい心持に、ふっと引きずり込まれて、軽い眩暈。
今日、古本の文庫本を手にした瞬間、中学生の頃、我が家にあった日本文学全集の中では横光利一が一番好きだったことを、思い出した。