この小説を書きながら、書き手は、「小説」なるものについて語っている。その小説観はなかなか興味深い。

P12(新潮文庫

「よく小説家がこんな性格を書くの、あんな性格をこしらえるのと云って得意がっている。(中略)本当の事を云うと性格なんて纏ったものはありやしない。本当の事が小説家などにかけるものじゃなし、書いたって、小説になる気づかいはあるまい。」


「纏りのつかない事実を事実のままに記すだけである。小説のように拵えたものじゃない」



ラスト
「自分が坑夫に就ての経験はこれだけである。そうしてみんな事実である。その証拠には小説になっていないんでも分る」