『野の道』の最後はこう締めくくられる。


野にあるものは野でしかない。それで充分である。ここには太陽があり土がある。水があり森がある。風が流れている。大きそうな幸福と小さそうな幸福とを比較して、それが同じ幸福であるからには小さな幸福を肯しとする、慎ましい意識がここにはある。宮沢賢治が、「都人よ 来ってわれらに交れ 世界よ 他意なきわれらを容れよ」と言ったのは、このような場からにほかならない。