どんどん

浅草木馬亭にて、玉川奈々福独演会 長編浪曲一挙口演『銭形平次捕物控 雪の精』を堪能した。「紫匂う大江戸の、しかも神田に過ぎたるものは、神田祭銭形平次――」。中入15分を挟んでの90分の大作。昭和30年代にラジオで5年間毎日放送されたという、当時の大人気作。浪曲師国友忠の口演をラジオを聴いた女学生が、浪曲の舞台に詰めかけたという伝説あり。

私は4年ほど前から折に触れ、玉川奈々福浪曲を聴いてきたが、いやはや、すごいよ、奈々福は。聴くたびに、どんどんうまくなる、どんどん聴かせる、どんどん力強くなる、どんどん繊細になる、どんどん多彩になる、とにかく、どんどん。今日の銭形平次は、90分間ずっと胸わしづかみ……。人間というのは、すごいな、一心不乱に打ち込めば、打ち込んだだけ、その結果が目に見えて出る。一心不乱にどこまでも伸びてゆく。一心不乱、命がけ。うん、そうね、創るも書くも語るも歌うも唸るも演ずるも、命がけでやらなくちゃね、そうじゃなくちゃ、生きてる甲斐もない。つくづくそう思わされた90分。

口演終わり、木馬亭を出て、浅草寺のほうの空を見やれば、煌々と丸く輝く月。うさぎが餅を搗いている姿がはっきりと見えた。もういくつ寝るとお正月……。