旅する対話

ゲラを読みながらの年越し。

2004年に、チェチェン人女性ジャーナリスト ザーラ・イマーエワと、カザフスタンの荒野を対話を重ねつつ旅をした。なぜカザフスタンの荒野なのかといえば、そこはスターリン時代のソ連で1937年には高麗人(旧ソ連在住のコリアン)が、1944年にはチェチェン人が追放されてきた場所だから。スターリンによって追放された17の民族、そのディアスポラ(離散)の運命が交差した大地だから。追放の荒野に生きた者たちの記憶を訪ねて旅をするその空の下、今なお解決を見ないチェチェンとロシアの戦いを想い、戦争とディアスポラと民族と文化と人間の行く末について語り合った。

その時の記録をまとめたものが、来春『旅する対話(仮)』(春風社)として刊行される。カザフスタンの旅から、8年も経っての刊行には、それなりの理由もある。旅をした頃には、チェチェンも戦争もディアスポラも日本に生きる人々にとっては遥かな想像も及ばないことで、つまりは日本では関心を惹かないことで、たとえそこに人間にとっての重要かつ普遍のテーマがあろうとも、出版が難しい類の本だった。それがようやく日の目を見るということは、喜ばしいことである反面、3・11後の日本がそれだけ不安に満ちた、戦争前夜のきな臭ささえ感じさせる社会になってきたということでもあるから、そう素直にも喜べない。

初校に編集者はこんな言葉を書き添えていた。
「選挙が終わって、さらに戦争の足音が高く響いてくるように感じます。今、出さないといけない本だと思います」

出版に合わせて、ザーラ・イマーエワが来日する。8年前の旅する対話のつづきが、今度は日本で。対話の相手は3・11後を生きる日本各地の人びととなる。

その皮切りは、2月23日、東京で。この日はチェチェン人50万人がコーカサスからカザフスタンへと追放された日でもある。

今だからこそ、多くの方々にザーラ・イマーエワとの対話の場に来てほしい。言葉を交わしてほしい。不穏な予感を現実のものとしないために。

2月23日の詳細は下記のとおり。

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ディアスポラ(離散)/トラウマ/アート』
〜2・23から3・11へ 災厄から再生へ 語り結ぶ旅〜
ザーラ・イマーエワ Speaking Tour in Japan  Vol.0

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日時:2013年2月23日(土) 14時開始 (〜17時終了予定)
場所:大妻女子大学千代田校舎  
主催:大妻女子大学チェチェン連絡会議
大妻女子大学 人間生活文化研究所 共同研究プロジェクト(054)
「子どもと女性の暴力被害者を支援する?専門職?育成のためのe-ラーニング開発研究」>

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●開会の辞: 「2・23から3・11へ」  姜信子(作家)    (14:00〜14:10)

「講演: ディアスポラ/トラウマ/アート 〜災厄から再生へ〜」 (14:15〜15:00)
講師:米田綱路(よねだ・こうじ)氏   
ジャーナリスト1969年奈良県生まれ。新聞社、出版社をへて週刊書評紙図書新聞に入社。編集長をへて、現在は同紙スタッフライターを務める。『モスクワの孤独――「雪どけ」からプーチン時代のインテリゲンツィア』でサントリー学芸賞受賞。そのほか著書に『脱ニッポン記――反照する精神のトポス』(上・下)、『ジャーナリズム考』、編著に『はじまりはいつも本――書評的対話』、『抵抗者たち――証言・戦後史の現場から』など。

映画上映:『いって・らっしゃい』(2012年 ザーラ・イマーエワ/岡田一男)
在日韓国人作家 姜信子と、亡命チェチェン人女性ジャーナリスト ザーラ・イマーエワは、カザフスタンへの対話の旅にでた。そこは、20世紀の歴史に翻弄された二つの民族が、遠い異郷で接点を持った土地。1937年、ロシア極東、沿海地方在住のコリアン=高麗人19万人が日本軍国主義への加担を疑われ、また1944年には、北カフカス在住のチェチェン人が、ドイツファシズム への加担という濡れ衣で、中央アジアカザフスタンに民族丸ごと強制移住させられた。劣悪な移送と過酷な環境、飢えと寒さと伝染病に、老人、婦女子、人口の3分の1(高麗人)、半数以上(チェチェン人)が犠牲となった。それでも人々が生き残ったのは、民族の違いを乗り越えて助け合い、明日に希望を託したからだった。    (15:10〜16:05)

ザーラ・イマーエワに聞く 「戦争/子ども/セラピー」
聞き手:鄭暎恵(チョン・ヨンへ/大妻女子大学教員)
 (16:20〜16:50)

●閉会の辞