かもめ組 ふたたび

11月23日に、一年ぶりに、かもめ組として、新潟に行ってきました。

「かもめ組」というのは、
昨年、新潟の萬代橋 水揚げ場のかもめシアターにて「浪曲からパンソリへ パンソリから浪曲へ」と題して、
浪曲玉川奈々福、パンソリ:安聖民 道案内人:姜信子のユニットで公演をしたのを機に結成されたもので、
地べたから声をあげ、カタリとウタとコエで人と人を結んで、旅してゆく、またの名を「さすらい千年姉妹」とも言います。
千年前に生き別れ、それぞれに半島と列島の芸能の道をひとり旅していた双子の姉妹が、ついに、とうとう、新潟で再会した!
という壮大な物語がその背景にはあるのです。

公演前に新潟日報にこんな文章を寄せました。
(関係諸氏より、意味不明だけど、面白そうではあるとのお褒めにあずかった迷文です。公演終ってからではなく、公演前にブログにアップしなさいとの声も聞こえます。ごめんなさい、関係諸氏……)

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浪曲からパンソリへ、パンソリから浪曲
  懐かしいカモメが二羽、新潟へ。
 

 さてさて、お集まりの皆様は、一年前に新潟で起きたひそかな大事件をご存知でしょうか? 千年前に生き別れた姉と妹が、姉は三味線の調べとともにこの列島の言葉で浪曲を、妹は太鼓の響きとともに海の向こうの半島の言葉でパンソリを、歌い語りながらてくてくと道行くうちに、なんと新潟の万代島旧水揚場でばったり出会った。見つめ合えばなんだかよく似た懐かしい顔。二人は千年ぶりの再会の喜びを、浪曲で、パンソリで、歌い語った。そのとき水揚げ場には群れなす白いカモメ。その日から、この千年のさすらい姉妹、玉川奈々福と安聖民は、旅するカモメと名乗るようになりました。

 思えば、いつの世も、大きな声や力に弄ばれて地を這うように生きる者たちは、「きっと伝えておくれ カモメさん」と、(これは日韓で歌われた演歌「釜山港へ帰れ」の一節!)、カモメのように旅ゆく者たちに願いをかけてきたものなのです。カモメたちは無数の思いを受けとり、海を渡り、道を伝い、思いを結び、祈りをつないで、脈々と名もなき者たちの物語を歌い語る千年もの道のりを生きてきたのです。

 この世に歌が生まれ、語りが生まれたはじまりのときへとさかのぼれば、そこには旅する異人(まれびと)、芸能の民がいます。いずこより現れては去りゆく異人を神と信じた者たちがいます。はるかな昔、神を迎えての宴の場、祈りの時こそが芸能のはじまりの場でした。それからずっと異人たちの旅はこの世とあの世を結び、見えない世界への通い路を開き、この世の痛み苦しみ呪縛を解きほぐし、名もなき者たちこそが主人公の歌や物語を紡ぎだしてきた。

 そのはるかな道のりを、もしや、あなたは忘れてはいませんか? 
 今ここで地を這うように生きる私たちこそが主人公の歌や物語を、あなたは見失ってはいませんか? 

 新潟と言えば、ふっとこんなことを思い出しもします。瞽女さんが三味線で弾き歌う瞽女唄を蚕に聞かせりゃ、美しい絹糸が取れたという。三味線の弦は絹糸です。かつて、蚕から絹糸を紡ぎだす技を列島にもたらしたのは半島からの異人です。この異人は死してのち、道行く芸能者たちの秘かな神になったといいます。絹糸に結ばれた半島と列島の秘かな祈りの道。それは、千年さすらいカモメ姉妹、玉川奈々福と安聖民を結ぶ道でもあるのです。

 来たる11月23日、懐かしいカモメたちがふたたび新潟に舞い降ります。泣いたり笑ったり喧嘩したり愛し合ったり、ちっぽけだけどきらりと光る名もなき者たちの物語を歌い語ります。それはきっと、あなたの物語でもあるのです。