響きあう声の場への招待

本日、新潟日報文化面に掲載の、日韓語り芸の競演『浪曲からパンソリへ、パンソリから浪曲へ』(10月7日開催)にまつわる文章です。

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『響きあう声の場への招待状』

 語り芸。たとえば日本で言うなら、浪曲、説教節、瞽女唄(ごぜうた)等々。韓国ならば、なんといってもパンソリ! 古来、語りの芸とは「旅」の賜物(たまもの)だった。
 旅ゆく者たちが拓(ひら)いてゆく「声」の道がある。それは、文字で記されることのなかった民の「記憶」の道でもある。かつて、村々を訪ね歩き、この世の物語を語り聞かせる者たちは、同時に村々の声を聴き、声に宿る記憶を聴き取る者でもあった。そして、声に宿る記憶とは、なにより、生き難(にく)さを越えて生きていこうとする者たちの祈りの記憶だった。
 私たちの日々に笑いがあり、涙があり、なにくそっという反骨の気概もあるように、語りの芸として結実した祈りもまた、笑いと涙と反骨で彩られた物語となる。旅する者たちは「境」を越えてゆくことが常だから、彼らの語りもまた村境や国境を越えた、いわば人としての祈りの物語となる。
 そんな物語を運びくる「声」の道、「記憶」の道に、いま一度立ってみないか?
 旅ゆく者たちの声に耳を澄まし、旅ゆく者たちにわが声を託す。そんな場を取りもどしてみないか?
 旅ゆく者たちの声の力で、境を越えてつながりなおしてみないか?
 つまりはそういうことで本企画は誕生した。
 浪曲。演者は玉川奈々福浪曲界の革命児との呼び声も高い、若手女性浪曲師! 先人たちの旅の賜物である「古典」と、彼女自身の旅の賜物である「新作」を演ずる予定だ。
 パンソリ。演者は安聖民(アン・ソンミン)。日本の大阪・生野に生まれ育った気鋭のパンソリの歌い手! 彼女もまた、先人たちの旅の賜物である「古典」を、彼女自身の韓国への旅をとおして血肉とした半島の民の声をもって演ずることとなる。
 この二人の旅人が呼び出す声の場にぜひ来てほしい。あなたの声も響かせてほしい。そこに集うすべての声たちが共に創りあげる、現世の境や縛りを越えた語りの場を堪能してほしい。響きあう声は、人を呼び、人をつなぎ、人を新たな旅へと向かわせるものなのだから! 

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 ■水と土の芸術祭パフォーマンス企画「浪曲からパンソリへ パンソリから浪曲へ」は同芸術祭メーン会場の万代島旧水揚場かもめシアター(新潟市中央区)で、7日午後4時から第1部「浪曲からパンソリへ」、同6時から第2部「パンソリから浪曲へ」の2部構成で上演。
予約、問い合わせは水と土の芸術祭実行委員会事務局、025(226)2624。