山の神、蛇神、カカ、カガ、カク、カグ、カゴ


『山の神』を読むうちに思い出したこと。

吉野裕子は、古代日本人は自然・人工を問わず、数多くのものを祖霊の蛇に見立てたという。自然物のうち、最大のものは山。多くの場合は円錐形の山。

また、『古事記』の万物生成神話のなかで山の神誕生に関するものは二つ。
大山津見神」の記述と、火神カグツチの所生にまつわる「八柱の山の神々」の記述。
そのうち、「カグツチ」の記述は以下の通りだ。



「次に生める神の名は……火之夜芸速男神、亦の名は火之荽毘古神と謂ひ、亦の名は火之迦具土神と謂ふ」(『古事記』上巻)



で、重要なのは、火神カグツチの「カグ」。
これは、「カカ」または「カガ」の転訛であり、「蛇」を指すものだと吉野は言う。
火神とされる「カグツチ」も実は蛇の霊(カカツチ)なのだという。


ここまで読んで、昨年春訪ねた上越・茶屋ヶ原の乳母嶽神社の鳥居の扁額を思い出した。

ここは、この神社が見下ろす四海波、その波濤を龍に見立て、大蛇に見立て、その大蛇姥竹(これは説経祭文「山椒太夫」宇和竹恨みの段と関わりの深い)を祀った神社とも言われる。


扁額には「迦具奴知命(カグヌチノミコト)」とある。
この神の来歴をいろいろ調べてついぞ分からなかったのだが、なるほど、そうなのか、「カグヌチ」の「カグ」がまずは重要なのだ。乳母嶽神社の神は、その神の名からして、そもそも蛇神なのだ。