水俣・乙女塚 塚守だった故砂田明さんの詩「起ちなはれ」(作・砂田明)の語りを、砂田エミ子さんに聞いていただくために水俣へ。

そもそもは、鳥獣虫魚草木、すべての生者、死者が集う鎮魂と芸能の場として開かれた乙女塚、

1993年に砂田明さんが亡くなってから、だんだんと静まりかえっていった乙女塚、

そこで、いまいちど、芸能祭をしよう、みんなで歌い踊ろう、砂田さんの詩を語ってみよう、2020年5月10日に乙女塚に同じ思いを抱く仲間たちが集まる予定だったのです。

 

しかし、コロナ。

 

砂田明さんの伴侶の砂田エミ子さんは93歳。

集ってくださるであろう水俣病の患者さんたちもウィルスに対する抵抗力はかなり低い。

そこに、万が一、外からコロナを持ち込んでしまったら……、

 

芸能祭は中止になりました。

でも、砂田エミ子さんには、「起ちなはれ」を聞いていただきたい。

そこで、個人的に、ただ砂田エミ子さんを目指して、水俣に行ったのです。

 

2020年5月9日水俣入り、

そして、5月10日午前、相思社にて。祭文語り渡部八太夫が三味線の弾き語りで「起ちなはれ」を語ることに。

演者と砂田エミ子さんのソーシャルディスタンスは20メートル!!

二つの部屋を挟んだ向こうとこちらとで、演者と砂田エミ子さんが向き合っての、

「起ちなはれ」の口演となりました。

 

砂田エミ子さんは、夫君砂田明さんが1993年に亡くなって以来初めて、声に出して語られた「起ちなはれ」を聞いたとのこと。

 

 

 

起ちなはれ 
                     砂田明


もし 人が 今でも 万物の霊長やというのやったら
こんな酷たらしい毒だらけの世の中 ひっくり返さなあきまへん
なにが文明や

蝶やとんぼや蛍や しじみや田螺(たにし)や がんや燕や、
ドジョウやメダカやゲンゴローやイモリや
数も知れん生きもの殺しておいて
首は坐らん目は見えん 耳は聞こえん口きけん 味は分からん手で持てん足で歩けん
― そんな苦しみを水俣の赤ちゃんに押し付けといて
大腸菌かてすめん海にしてしもて
なにが高度成長や なにがハイテク・財テク


貧乏がなんどす え 思い出しなはれ
知らん人には 今どきの若い者(もん)には教えてあげなはれ
お芋の葉ァ食べたかて 生きてきたやおへんか
そのかわりに 青い空にはまぶいお陽(ひぃ)さん
せみしぐれの樹陰(こかげ)は風の涼しうて あの緑と草いきれときれいな川と池と海と・・・・・
そや 昭和二十年敗戦の夏 大阪湾の芦屋の浜で
今はチョコレートみたいな海になってる あの大阪湾で
小っちゃい鯛やら河豚(ふぐ)やら 手でとれた
そんな中で なあ にんげんは ぎょう山(さん)の生類(しょうるい)といっしょに生きておったんやて
教えてあげなはれ ――思い出さんかい


もし あんたが 人やったら
起ちなはれ 戦いなはれ
公害戦争や 原発戦争やでえ
戦争のきらいなわし等のやる戦争や 人間最後の戦争や 正念場や
勝たな あかん 勝ちぬかな
子どものために 孫のために 生きとし 生けるもののために
そうしてこの自分自身のために 一度しかない人生のために

…・・・負けたら?   
負けたら一巻の終りや 生殺しの毒地獄や
数も知れんほどぎょう山 お仲間の生類殺した霊長はんはなあ そのかわりに
ビニールやら 水銀ヘドロやら ダイオキシンやら 核廃棄物やら
数も知れんほどぎょう山のガラクタ残して
この地球から きれいな青い星から
消えてしまうだけのハナシや


 

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