つづける

「おれひとりが人間で、ほかのものがすべて神なんだ」 ベケット


安部公房『燃えつきた地図』を読む。この空気、どこかで吸ったことがあると思いつつ、読み進めるうちに、ああ、これはオースター、と不意に気づく。
失踪した男、失踪した男を探す男、探す男は実は失踪する男(あるいは既に失踪した男)でもある。この物語の世界に入り込めば、誰もが、失踪した誰かを追ううちに、失踪した自分に出会うことになる。
「都会―閉ざされた無限。けっして迷うことのない迷路。すべての区画に、そっくり同じ番地がふられた、君だけの地図。だから君は、道を見失っても、迷うことはできないのだ」。こんな、迷うことすらできぬ苦しさを冷静に見つめる言葉から始まった物語は、「探し出されたところで、なんの解決にもなりはしないのだ。今ぼくに必要なのは、自分で選んだ世界。自分の意志で選んだ、自分の世界でなければならないのだ。彼女は探し求める。ぼくは身をひそめつづける……」という言葉で終わりを告げる。それは、もうひとつの失踪の物語のはじまりでもある。


これを自分自身の物語でもあると認めてしまったら、かなりキツイかもしれない。

「続けなくちゃいけない、おれには続けられない、[……]続けよう」 ベケット