ウンベルト・サバ

須賀敦子ウンベルト・サバ詩集より。
その人生に響きあう声のかけら

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トリエステには、閉ざされた悲しみの長い日々に
自分を映してみる道がある、
旧ラッザレット通りという名の。
(「三本の道」より)

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ぼくは知っている、この想いの深いところに、この
至福の、そして痛ましい時間に、
きみがいるのを、少女よ。
(『愛ゆえの棘』より)

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それでも、こころには
言葉を紡ぐことへの愛が
あって。なにもかもは、すばらしい。
人間もその痛みも、わたしのなかで
わたしを哀しませるものさえも。
(「詩人 カンツォネッタ11」)

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おかしな古書を売る店がトリエステ
ひっそりした通りにひとつある。
古い装釘にほどこしたとりどりの金の
飾りが、棚をさまよう目にとっての歓び。

そのしずかな界隈には詩人がひとり、
死んだものたちの生きた碑銘を
誠実で、あかるい、作品に織っている。
憂いのある、なんでもない、孤独な愛の詩。

ある日、閉ざされた狂気に潰えて死ぬなら、
それでいい。愛する紙たちのうえに、
多くを見たこの目を閉じることができたら。

彼の時代に締め出されたもの、その空間に
容れられないものを、みごとに芸術はいろどり、
よりやさしい歌にして彼にくれたのだから。
(「自伝」より)

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おお、帰ってきておくれ、ずっとむかしの声たち、
諍いあう、いとしい声たち!
あたらしい、やわらかな和音にまとめて
ぼくがもういちど響かせるのは、むりだろうか。
(「プレリュード」より)

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1 ミラノ

石と霧のあいだで、ぼくは
休暇を愉しむ。大聖堂の
広場に来てほっとする。星の
かわりに
夜ごと、ことばに灯がともる。

生きることほど、
人生の疲れを癒してくれるものは、ない。
(「三つの都市」より)

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