書かれるものの到来は…

「書くというのは語らないことよ。黙ること。音をたてずにわめく」とマルグリット・デュラスは「書く」と題されたエッセイに(『エクリール 書くことの彼方へ』所収)に書いた。

さらには、こんなことも。
「書くという行為は未知なるものよ。書く前は、自分が書こうとしていることについてもなにも知らない。しかも、まったく明晰な状態において
ね」

書くことの孤独がある、ということもデュラスは語る。そして、書くことには基準がないとも。(基準が立てられるようなものは書くに値しない。なぜなら、書かれるものは、書かれてはじめて、それがなぜ書かれるべきであったかがわかるものだから)

「内在的な書く狂気というのが存在し、それはすさまじい狂気だけど、人が狂気におちいるのはそのためではない。その逆なのよ」

「書かれるものの到来の仕方は風に似ていて、むき出しで、それはインクであり、書きものである。その移行の仕方は、この世のほかのどんなものとも違う特異性をもっているだけだけど、ただひとつ似ているものは命そのものよ」


孤独、狂気、命。
デュラスの語ることは、わかる。頭ではなく、全身全霊ででわかる。