シカラムータの大熊ワタルさんの連載がはじまった!

「「生き生きと幸せに」――チンドン・クレズマーの世界冒険」。
これが連載タイトル。
第一回は、「NYにエコーしたイディッシュの記憶」
これが実に面白かった、なにより刺激的。音楽っていいなぁ、ほんとうに。


クレズマーとは、東欧系ユダヤ人の民衆音楽だ。
それを30年前に初めて聴いたとき、大熊さんは、
「その音楽の響き――哀愁と祝祭性――に打たれた。そして、ほとんど瞬時に、まさに自分たちが取り組もうとしていたチンドンとジャズの同時代的な融合に、この音楽も共通の響きがあることを直感していた」

この直感は間違っていなかった。
日本最強の路上のチンドン・クレズマー楽団シカラムータ、そして大熊ワタルは、縁あって、NYのイディッシュ劇場の100周年祝賀フェスティバルに招かれ、演奏するのだが、そのチンドン・クレズマーをユダヤ系日刊紙FORWARDはこう評したのだから。
「ユニークだったのは、この演奏が感傷や懐古なしにこの音楽を活気づけ歓喜させたこと。そのことでイディッシュ音楽が、それに属する人々を絶滅させる試みで中断されなければ、どのように自然に進化しただろうかと想像できたことだ」

この評は胸を衝く。クレズマーの響きの向うに無惨な絶滅収容所の光景も広がる。そこで演奏された音楽の数々さえ想い起こしてしまう。

同時に、人々とともに消されたかのように思われたクレズマーが、NYのユダヤ移民たちの間でリバイバルされ、それが人種と国境を越えて旅したときに生み出されたものに胸打たれる。

路上にあること、旅をすること、混じり合うこと、なにより、それを歌い踊ってきた民のことを忘れないことによって、ますます豊穣になってゆく音楽の力をあらためて思った。