『オーバーストーリー』リチャード・パワーズ

これは、もうひとつの『未知との遭遇』なんだな。

ただし、最初の『未知との遭遇』は宇宙からやって来たけど、

 

この『未知との遭遇』は、地球のなかの、それもすごく身近な、でもすっかり忘却のなかの存在となっていたものとの遭遇。

 

「未知」に呼ばれる者たちは、なぜ自分が呼ばれたのかを知らぬままに、呼ばれて出会って運命を共にして散ってゆく。

 

その「未知」の存在とは「木」であり「森」であり、土も水も微生物も獣も虫も鳥もあらゆる生き物をひっくるめて樹木が形作る生命共同体(そのなかには人も入っている筈。人はそのことを忘れているけれど)。なのだと、一見、書かれているようで、

 

実のところ、もっとも忘却の彼方の存在になっているのは「人間」なのだと、もっとも出来が悪くて、もっとも救われなくていけないのに、そのことをもっとも知らずに忘れて生きているのが人間なのだと、

パワーズは、そう言っているような気がしたね。

 

人間という救いがたい「未知」との遭遇。