「居場所を失くしたカミサマたちの歌」

 

悪いことをしたらカミサマのばちがあたるというけれど、

問題はそのカミサマがどこにいるかということでして、

まだ私がタンポポの花やテントウムシくらい小さかったころに、

おばあちゃんがそう言って教えてくれたことには

カミサマはどこにでもいる

山にも川にも海にも木にも 草にも花にも虫にも石にも どこにでもいる

一番びっくりしたのが、おばあちゃんのこの言葉でした、

あんたの頭の上にもカミサマはいるよ、みんなの頭の上にカミサマがはいるんだよ、

カミサマは歌がとっとも好きだから、

あんたが歌えばカミサマは頭の上でぱんぱんぱん 手を打って

とんとんとん 足を鳴らして踊るんだよ、

カミサマが踊れば、あんたも踊る、カミサマが笑えば、あんたも笑う、

カミサマはしあわせ、あんたもしあわせ、みんなしあわせ、

山もしあわせ、川もしあわせ、海もしあわせ、鳥もしあわせ、虫もしあわせ、石もしあわせ、世界はしあわせ、

 

 

おばあちゃんの話を聞いて、もっとびっくりしたことがありまして

それはやっぱりカミサマがどこにいるかという問題でありまして

大人になった私が、タンポポみたいに小さくなったおばあちゃんと

久しぶりに会って話して、おばあちゃんが言うことには、

あんたのカミサマ、どこいった?

あんた最近歌ってないね、ほら口を大きくあけてごらん、

ほらほら、奥歯がこんなにすりへっている、

この世界でどれだけ歯を食いしばって生きてきたんだろうね ギリギリ生きてきたんだろうね

カミサマもきっとつらくなって、

歌を忘れたあんたに そっとサヨナラ、

歌を探して旅に出た

ちっぽけな自分のことばかりを見つめてばかりの小さなその目で、世界をぐるりと見まわしてごらん、

どいつもこいつも頭の上がカラカラからっぽじゃないか

歌を失くした人間たちに カミサマたちがさようなら、

だから世界はすっかりカラカラ、心もカラカラ、さびしいね

 

 

そして、おばあちゃんは枯れ木のように突っ立っている私を見つめて、

もっともっとびっくりすることを言ったのでした。

ほんとはね、あんたこそがカミサマなのよ、

頭の上にカミサマをのせたあんたこそがカミサマだったのよ、

カミサマたちのいないところは、人間たちのいないところ、

カミサマがいないところは、うれしいんだか悲しいんだか楽しいんだか寂しいんだか生きているんだか死んでいるんだか何が何だかわからないところ、

だから、あんたも、いますぐ忘れた歌を探して旅に出なくちゃいけないよ

うれしいときはうれしい歌、寂しいときは寂しい歌、悲しいときは悲しい歌、旅するときは旅の歌、歩き出せば、ほら向こうからきっと歌がやってくる、

そうして最初にあんたが出会う歌の名前は、「居場所を失くしたカミサマたちの歌」、

これはあんたが絶対に忘れちゃいけない歌の名前なのさ、

そう言っておばあちゃんはからからからから笑ったのでした、

 

 

からからからから、居場所を失くしたカミサマたちの歌、からからからから、居場所を失くした人間たちの歌、からからからから、歌へと旅立つ私たちの歌