天国、到来。

原稿書きの合間に、小島信夫を読み、チェーホフを読む。セルゲイ・ドヴラートフも読みなおそうと思いつつ、原稿に引き戻される。ブルガーコフも読みたいのだけどなぁ……。

チェーホフの登場人物のしゃべることは、たとえば『私はノドが痛い』といったとしても、それは、ほんとにノドが痛いのかどうか分からぬ。人物が自分でそう解釈しているだけのことかも分らない。そうしゃべっている人物がそこにあるということであって、それは私たちの存在に一番近いのではないか」 小島信夫

「誰のところだったか、誰かの絵かきの家だったろうが、ちょいちょいガルシンと顔を合わせることがあった。彼はそこで、そのころ出たばかりの『組曲』とでも呼びたいようなチェーホフの『曠野』をみんなに読んで聞かせた。チェーホフはまだまったく未知の、新しい文学上の現象だった。聞き手の大部分は、わたしも含めて、チェーホフを、『筋のない』『内容の乏しい』ことを書くそのころの彼の新しい手法を攻撃した……。当時まだ、わが国の作家たちは、ツルゲーネフの型から逃れられなかったのだ。『なんだねこれは。全体にまとまりもなければ思想もない!』と、われわれはチェーホフをこきおろした。ガルシンは涙を浮かべながら、感に堪えぬような声でチェーホフの美しさを主張しつづけ、ロシア文学にはこういう言葉、生活、率直さの見られる傑作はこれまでなかったと言うのであった」 レービン

チェーホフの『学生』『聖夜』を、しみじみと読んだ。『聖夜』を読んで、脈絡もなく幸田露伴の短編のいくつかを思い浮かべた。

本日、『あなたたちの天国』(李清俊 みすず書房)の見本が出たとのこと。

表紙画は、主人公のモデルとなった趙昌源氏。元小鹿島病院院長。