恐れるな

12月はぼんやりとあっと言う間に時が流れて、早くも半ば。レノンの命日も気がつけば通り過ぎ、今日は赤穂浪士討ち入りの日。イヤダナ、意味もなく忠臣蔵を思い出す。今夜は横浜・伊勢佐木長者町FRIDAYにクレイジー・ケン・バンドを聴きにいく。この一年間がんばった自分へのささやかなご褒美。

長島愛生園 キム・テグさんのインタビューのテープ起こし完了。400字×20枚。さて、これを素材に、論をどう組み立てていこうか……。在日だけど、ハンセン病回復者だけど、けっして特別な人ではない、隣近所に住んでいそうな普通のおじさんの人生、社会との向き合い方、不条理との闘い方。

森敦と小島信夫の関係の面白いこと、うらやましいこと。『対談 文学と人生』(講談社文芸文庫 森敦 小島信夫)をぱらぱらと読んでいる。森敦が一筋縄では行かない人物であることは、身近な人々の証言でも知れるところだが、小島信夫と丁々発止、ウナギ流小島信夫を鼓舞し、インスピレーションを与え、書くことに向かわせるという、そのありようの恐ろしいほどに見事なこと。

「小説家というものは、弱いものだ。これはぼくだけではない。人間は、といいかえてもいい。何故かというと、小説を書こうとしていたり、書いていたりするときは、いちばん人間に接近し―接近しすぎるくらいだ―人間そのものになるときだからし、そうでなければ、小説は無用のものだから」(小島信夫

「収斂というものをよく考えて、往復切符をもたずにまっすぐにいくやつがカフカなんですよ。だから、カフカというのはどの小説を見てもうしろを振り返らんですよ。そしていつも不思議なことは、現在からはじめているんだ」(森敦)


あの本、この本と、落ち着きなく飛び回って読んでいて、なかなか最後までたどり着けなかった『ダロウェイ夫人』を読了。今さらながら、ヴァージニア・ウルフに感服。とらえどころのない人の心、人のふるまい、人が生きて死ぬということ、正気と狂気を追いかけてゆく、狂的なウルフの言葉。

「そら、老婦人は明かりを消した。今や家中が暗くなり、しかも人生は進行してゆく。そしてもう恐れるな、夏の暑さを、の言葉が心に浮んで来た」


「なぜって毎日生活を共にしている人たちについてさえ、何がわかるのでしょうと彼女は訊いた。わたしたち、みな囚われ人なのではない? 彼女は独房の壁に爪で文字を書いた男についてのすばらしい劇を読んだことがあった。そしてこれは人生の真実だ―― 人は壁に爪で書くのだと感じたことがあった。


囚われている。でも、爪ではなかなか書けない。