「おとな文庫」。これは、陸前高田市の高田保育所に開設される本のコーナーの名前。本が読みたくとも欲しくとも手に入らぬ被災地のおとなたちに本を贈ろうと有志12名が選んで私に送ってくれた本を、段ボール3つに詰めて、高田保育所に届けた。有志それぞれが本に添えたメッセージも届けた。夜寝る前は必ず本を読むくらいに本が好きという所長先生が、しっかりと本とメッセージを受け取ってくれた。本が先生方や大人たちの心の力となり、潤いとなり、ぬくもりとなることを願った。
子どもたちの命を育み守るかけがえのない仕事をされている先生方もまた被災者。みずからの命を育み守ることも大変な状況のなかにありながら、子どもらを包み込むようにして守っている。その必死の心に刻み込まれている悲しみ、痛みが、陸前高田に通うほどに、ますます切々と強く深く私の心にも染み入ってくる。言葉にはならない思い、言葉にならぬ声。私はただじっと耳を傾けている。100年でも200年でも、かたわらにいて、ただじっと耳を傾けている。そういう自分であれたらと思った。
これは門柱だけが残った高田保育所跡。(今は高田保育所は米崎保育所の旧園舎を借りている)。3・11以前は陸前高田市では最大の保育所だったという。この保育所から先生方は園にいた子どもたちを抱きかかえ、走れる子は走らせて、高台へ高台へといつまで走り続ければいいのかもわからぬまま、背後に迫りくる津波から走って走って逃げたという。門柱の前から見たその道は、ずいぶんと先まで平らかな道で、いつになったら安全な高台にたどりつけるものやら……、門柱の前に立った私は、とてつもない恐怖に襲われ、呆然と立ち尽くした。